憧れの鳥探しに挑戦! 第3回《降りてこなかったトラツグミ》
Author:髙野丈(編集部)
こんにちは、文一総合出版編集部の髙野丈です。プロバードガイド・石田光史さんの新刊『旬の鳥、憧れの鳥の探し方(以降、探し方本)』のテーマに合わせ、憧れの鳥探しを実践する本企画。前回は難易度が高いアオシギ探しに挑戦し、惨敗を喫しました。気を取り直して今回挑む相手はトラツグミ。探し方本1月のミッションから選びました。公園で出会うこともあり、アオシギに比べればはるかに身近な鳥ですが、これまで狙って探したことはありません。果たして見つけることはできるでしょうか。
*参照:
憧れの鳥探しに挑戦! 第1回《ムギマキに会いたい》
憧れの鳥探しに挑戦! 第2回《アオシギを見つけ出せ》
憧れの鳥探しに挑戦! 第4回《シマエナガをかわいく撮りたい》
暗い林のある郊外の公園へ
郊外の広めの公園を探鳥地として選びました。トラツグミはわたしのホームフィールドである都立井の頭恩賜公園(東京都)で出会うこともありますが、今シーズンは渡りの時期に一度確認したのみで、その後出会っていません。暗い林があっても、いなければ見つけることは不可能です。わたしは事前に情報収集しないので、今回訪れたフィールドにトラちゃんがいるかどうかはわからなかったのですが、郊外の広い公園で暗い林があれば可能性が高いと考えました。
探索する場所は、林床に落ち葉が積もっている林です。トラツグミはカムフラージュ効果の高い羽色で、「森の忍者」の異名を取るほど。動きが止まっていると見逃してしまいそうなので、いそうな場所を丹念に確認しますが、舗装されている園路から探索するようにしましょう。林内に踏み込むと、落ち葉を踏む音で鳥が逃げてしまうからです。誌面にも「足音が立ちにくい遊歩道があればベスト」と記載されています。状況を考えずに林内を歩き回ると収穫は得られないのです。当たり前のことですが、結構重要ですね。
探索を開始してすぐに、ヒッ、ヒッ、ヒッという鳴き声が聞こえました。これはジョウビタキかルリビタキの地鳴き。水平方向に鋭く飛んで切り株にとまった小鳥が尾羽を上下に振っていたので、ルリビタキだとすぐにわかりました。時折、地鳴きにギュッ、グッという声が混じるのも特徴です。
ルリビタキの行動をしばらく観察し、探索を再開。ほどなく、ルリビタキと同じように水平方向に鋭く飛んできた鳥がいました。今度は尾羽を振るわせるような動きをしたので、ルリビタキではなくジョウビタキだとすぐにわかりました。肉眼で見当をつけたら、双眼鏡で確認します。ジョウビタキはムラサキシキブの実をひと粒食べると、飛び去りました。
不意にゴジュウカラが飛んできてコナラの幹にとまりました。ここは首都圏のはずれにある自然度の高い公園なので、平地にも関わらず山の鳥もいるのでしょう。ゴジュウカラは逆さにとまり、樹皮のすきまになにかを埋め込むような動きをしていました。おそらく、冬に備えて木の実を貯蔵していたのでしょう。ヤマガラにもよく見られる行動です。
トラツグミを攻略する3つの策
次々に魅力のある鳥に出会えてすでに充実した鳥見になっていますが、本命を忘れてはいけません。例によって誌面に掲載されている探し方の3つのポイントを確認しましょう。著者から授けられた3つの策です。
1 冬鳥がよく見られそうな公園の薄暗い場所を探す
2 杉林と落ち葉がセットになっている場所に絞る
フィールドの選択はおそらく正解です。すでに複数の冬鳥にも出会えていますし、スギやヒノキが混じる林は落葉した広葉樹林よりも暗く、なおかつ落ち葉も積もっています。広い公園内にはいたるところに林があるので、丹念に探していけばよいのです。
3 歩き回らず、鳥の動きや落ち葉をどける音で探す
歩きながら眺めるのでは鳥の動きを見落としがちです。必ず立ち止まって動くものを捉え、鳴き声はもちろん、鳥が落ち葉をふんだりどけたりするときのかすかな音を聞き逃さないようにします。
探索の途中、池に出るとカモがたくさんいました。双眼鏡で確認すると、マガモが多数いる中にオカヨシガモやヨシガモが混じり、1羽だけトモエガモがいました。さらに観察を続けると、潜水を繰り返す真っ白なカモが。「パンダガモ」の愛称で親しまれるミコアイサ(オス)です。都内ではなかなか見られず、とてもうれしい出会い。遠征した甲斐がありました。
池のほとりの開けた場所では、林とは違った鳥たちに出会えました。
トラちゃんを発見!
林へ戻り、探索を再開しました。風はたいしたことありませんでしたが、落葉や林床の落ち葉がめくれる動きに惑わされました。動くものが目に留まってしまうのが鳥屋の性です。
トラちゃんはなかなか見つかりませんでしたが、暗い林内で2羽の鳥が追いかけ合うような動きがあり、ハトくらいの大きさの鳥が地面から上がり、樹上にとまりました。そのサイズ感から直感的に見当がつきました。双眼鏡で確認すると、はたしてトラちゃんでした。同じ林内にいたシロハラに追い払われたようです。トラちゃんはすぐに枝移りし、葉で見えない位置に隠れてしまいました。
探し方本では、トラちゃんが驚くと樹上に上がることを紹介し、「鳥が林の中に隠れてしまうと、探すのをあきらめてしまいがちだが、トラツグミは地上採食だから、地面に降りたくて仕方がない。付近で待っていれば、音もなくさっと地上に降りてくるだろう」と書いてあります。その展開を期待してしばらく待ってみましたが、このときはすぐに降りてきませんでした。ひと回りして戻ってくれば地上で採食しているだろうと、いったん離れて時間をおいてから戻ってきましたが、残念ながら再発見はできませんでした。でも一応、ミッションは達成できました。ほかにも多くの鳥を観察できましたし、満足いく鳥見となりました。
次回は少し足を延ばして、北の大地へ行ってみようと思います。そう、大人気のあの鳥を求めて。
Author Profile
髙野丈
文一総合出版編集部所属。『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』(著:石田光史)の担当編集者。自然科学分野を中心に、図鑑、一般書、児童書の編集に携わる。その傍ら、2005年から続けている井の頭公園での毎日の観察と撮影をベースに、自然写真家として活動中。自然観察会やサイエンスカフェ、オンライントークなどを通してサイエンスコミュニケーションにも取り組んでいる。得意分野は野鳥と変形菌(粘菌)。著書に『探す、出あう、楽しむ 身近な野鳥の観察図鑑』(ナツメ社)、『世にも美しい変形菌 身近な宝探しの楽しみ方』(文一総合出版)、『井の頭公園いきもの図鑑 改訂版』(ぶんしん出版)、『美しい変形菌』(パイ・インターナショナル)、共著書に『変形菌 発見と観察を楽しむ自然図鑑』(山と溪谷社)がある。
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