憧れの鳥探しに挑戦! 第4回《シマエナガをかわいく撮りたい》
Author:髙野丈(編集部)
こんにちは、文一総合出版編集部の髙野丈です。プロバードガイド・石田光史さんの新刊『旬の鳥、憧れの鳥の探し方(以降、探し方本)』のテーマに合わせ、憧れの鳥探しを実践する本企画。前回はトラツグミ探しに成功しましたが、じっくり観察することはできずやや不完全燃焼でした。それでも、自然度の高い郊外の公園を散策しながら多くの鳥を見つけることができ、楽しい鳥見となりました。さて、4回目となる今回狙うのは、巷で大人気の「雪の妖精」シマエナガ。大好きな鳥で30年ほど前からあれこれ関わっているのですが、今ひとつこれだという写真がないので、今回は撮影にこだわって臨みたいと思います。
*参照:
憧れの鳥探しに挑戦! 第1回《ムギマキに会いたい》
憧れの鳥探しに挑戦! 第2回《アオシギを見つけ出せ》
憧れの鳥探しに挑戦! 第3回《降りてこなかったトラツグミ》
北の大地へ
新年早々、北の大地へ飛びました。シマエナガはエナガの亜種で、北海道にしか生息しないからです。探すためのハードルは北海道へ行かなければならないことだけで、出会うのが難しい鳥ではありません。本州の亜種エナガと同じように、林があれば市街地の公園でも出会える普通の鳥です。たまにバラエティ番組で、自然度の高い森にしか生息せず、なかなか出会えない鳥のような紹介のされ方をしますが、かなりオーバーな演出といえます。実際、わたしが過去に出会ったことがあるのは公園、神社、河川敷、住宅地など身近な環境。今回は比較的平坦で歩きやすい公園を探鳥地として選びました。
大好きなシマエナガを求めて歩くのですが、ほかにも魅力的な鳥たちが次々に現れます。北海道で鳥見する魅力、それは本州では高地に生息する鳥が平地で見られること。北海道は緯度が高いので、本州では平地から山地まで標高に応じて垂直に分布する鳥が、ぎゅっと圧縮されるように平地に生息するのです。キクイタダキにハシブトガラやヒガラ、キバシリが平地で普通に見られますし、本州では山のキツツキであるオオアカゲラが街中の公園にいて、こんなにかんたんでいいのだろうかとうれしく戸惑ってしまいます。さらにレンジャクやベニヒワの大群もいて、ちょっと興奮してしまいました。
シマエナガを探索する
エナガ(シマエナガ)は単独ではなく群れで行動しますから、近くにいれば見つけやすい鳥です。たいてい、数羽の小群で動いています。ただ普通の鳥とはいえ、スズメやドバトのようにいつでもどこにでも多数いるわけではないので、北海道の広大なフィールドで群れに出会うためには、粘り強く歩いて探索することが必要です。探索では目を凝らしますが、多くの場合は鳴き声で気づきます。亜種エナガと同じ「ジュール、ジュール」「ヒリリリ」といった鳴き声です*。遠くの鳴き声も聞き逃さないよう、耳を澄ましてゆっくり歩きます。それでは、鳥探し本をひもといて、3つの策を確認しましょう。
*シマエナガの鳴き声は、鳥探し本p35誌面の二次元コードをスマートフォンで読み取ることで聴くことができます。
1 鳴き声で群れを見つけ、動きをよく観察する
シマエナガは林で小さな虫を採食しながら、群れでなわばり内を巡回します。見つけたら、群れ全体の動きを観察してみましょう。群れのなかの鳥はそれぞれせわしなく動きながら枝移りしていきますが、広く見ていると群れに「流れ」があるのが見えてくるはずです。先導役となる鳥がいて、その移動に群れのほかの鳥が追随します。そうして、群れ全体が少しずつ移動していきます(時によって一気に大きく移動することもある)。この群れの流れを見極めて、先回りすることが攻略のポイントです。撮影は群れを見つけやすく、寒さで鳥がふっくらしている冬場がベストシーズン。ただ、先回りするためには雪をラッセルすることも多く、体力が必要です。
2 樹液の出ている木を探す
これは歩き回る元気や体力に自信がない人向けの作戦。シマエナガは虫中心の食生活ですが、真冬はカエデ類やシラカバなどの樹液をなめることがあります。木の幹を流れる樹液、寒さでつらら状に凍っている樹液を見つけたら、少し離れたところでシマエナガがやってくるのを待つのもよいでしょう。いずれ群れがやってくるはずです。
3 追うのではなく、待ち受ける
これは2のことを言っていることもありますが、実はもう一つ意味があります。このあとの応用編で説明しましょう。
応用編:シマエナガの顔を正面から撮影するには
すでに説明したように、シマエナガの群れには流れがあります。群れを見つけてしばし撮影することができても、すぐに移動していってしまいます。撮影しながらも、全体の流れを見てしっかり捕捉していないと、見失ってしまうこともあります。そしてこの群れに後ろからついていっても、撮影は常に後手にまわることになってしまい、かわいさが際立つ正面向きの顔を撮影できる可能性は低くなります。では、どうすればよいのでしょう。
群れが次に移動するおおまかな位置を予想して、先回りすることです。このとき、群れを後ろから追いかけて追い越そうとしてはいけません。シマエナガは人おじしない小鳥ですが、さすがにずんずん追いかけられたら逃げます。だから、シマエナガたちを脅かさないように大きく回り込んで、群れが移動するであろう位置に先回りします。雪の中をわざわざ長く歩くことになるので一時的に疲れますが、いい運動になります。そう、前向きに考えましょう! シマエナガ撮影は健康的活動なのです。辛いときには、あのキュートな顔をイメージすると力が湧いてくるでしょう。
このとき、周囲にほかのカメラマンがいるなら、その後ろを通るようにするのがたいせつなマナー。鳥にも人にも気をつかいながら、自分が予想する位置取りをします。そこに群れが来てくれれば、正面から撮影できる可能性が高くなります。予想が外れて、群れが違う方向に流れていくこともままありますが、相手は野生動物ですから、成功も失敗もカメラマンの常です。読みが外れて徒労に終わっても、読みが当たったときの喜びが大きく上回ります。
待ち受けるポイントとしては、低い位置にシマエナガがとまる場所があることが重要です。せっかく予想が当たっても、高い枝しかないような位置では顔を正面から撮ることは難しくなります。低い位置で、こちらを向いてくれることが理想です。シマエナガは人おじしない鳥なので、すぐ目の前に降りてくれることもあります。あまりにも近すぎて、撮影できないこともままあります。そういうときには撮影のことはいったん忘れて、その場と時間を楽しみましょう。シマエナガがこちらをちらっと見たとき、きっと心がとろけてしまうことでしょう。
次回は冬に出会いたい、赤い鳥たちを求めて出かけてみようと思います。
Author Profile
髙野丈
文一総合出版編集部所属。『旬の鳥、憧れの鳥の探し方』(著:石田光史)の担当編集者。自然科学分野を中心に、図鑑、一般書、児童書の編集に携わる。その傍ら、2005年から続けている井の頭公園での毎日の観察と撮影をベースに、自然写真家として活動中。自然観察会やサイエンスカフェ、オンライントークなどを通してサイエンスコミュニケーションにも取り組んでいる。得意分野は野鳥と変形菌(粘菌)。著書に『探す、出あう、楽しむ 身近な野鳥の観察図鑑』(ナツメ社)、『世にも美しい変形菌 身近な宝探しの楽しみ方』(文一総合出版)、『井の頭公園いきもの図鑑 改訂版』(ぶんしん出版)、『美しい変形菌』(パイ・インターナショナル)、共著書に『変形菌 発見と観察を楽しむ自然図鑑』(山と溪谷社)がある。
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