旅で生まれるギフトとレシーブの話
■地域を育てる土と風
「土の人と風の人」という言葉を聞いたことはありますか。
ひとつの地域に根を張って暮らすのが「土の人」
土地に根を張り、日々の暮らしを守り、受け継ぎ、育む存在。
変わらない日常に小さなざわめきを起こすのが「風の人」
地域の外からやってきたり、外からの視点を持った人。
変わらない日々の外側から現れて風を起こし、新しいなにかを生み出すきっかけになる人。
土の人と風の人、地域に活力を生み出すにはその両方が必要と言われています。
どちらか一方だけではだめなのです。
風の人は地域に風を起こしますが、一方で風の人が土地の人から受け取るものもたくさんあります。
ぼくは典型的な風の人。ひとつの場所にとどまり続けることができません。
いろんな土地を訪れるなかでたくさんのものを頂いて、そして少しですがお返しを置いて来ました。
■熊野で暮らした一ヶ月のこと
これまでに一番たくさんのものをもらったのは、世の中がとてつもなく窮屈だった2020年の6月、三重県の御浜町に一ヶ月滞在した旅でした。
紀伊半島の先端で和歌山との県境に近い町で、熊野本宮大社や那智神宮など由緒ある神社からもほど近く、現代の行政区分とは別に「熊野地方」とも呼び習わされる土地です。
東京に住んでいたぼくはコロナの影響ですべての仕事がなくなってしまい、かといって旅行や外出もできず、自宅に引きこもる日々を送っていました。
閉じ込められて心がすさみSNSに病んだ投稿を繰り返していたぼくを見かねて、熊野に住む知人が梅農家さんでのアルバイトを紹介してくれたのです。
■風が土からもらったもの
ぼくがその旅でもらったものは主に3つ。
【お金】
滞在の主な目的は梅収穫のアルバイトで体力的にはそうとうキツイものでした。
ただ農業系のバイトとしてはかなりいい時給で、現地での滞在費や食費、熊野までの移動費に東京の家賃光熱費まで、その月にかかった費用はすべてまかなえました。
【心の安定】
朝の7時からバイトで身体を動かし休みの日には近隣の温泉や神社を巡る。
自然のサイクルに沿った熊野での生活は、不安に取り憑かれた心を落ち着けてくれました。
【つながり】
宿泊先として紹介してもらったのは70歳を過ぎた女性がひとりで切り盛りしているゲストハウス。
彼女は東京からの移住者ですが地元の人や移住者に顔が広くて、おかげで大勢の人と知り合うことができました。
■風が土に残せたもの
たくさんのものをもらった一ヶ月の滞在。
では、代わりにぼくが熊野に残せたものはなんだったのでしょうか。
【労働力】
もらったバイト代分くらいは労働力として返せたと思ってます。
農繁期には人手が必要ですが、地方ではそれをまかなうのも難しくなってきているとか。
【スキル】
滞在中に管理人さんが携帯を変えてフェイスブックにアクセスできなくなってしまいました。
そこでアカウントの復旧のお手伝いを。
またゲストハウスPR用の写真も撮りました。
大したことじゃないれど、できることを困りごとの解決に役立てられたのはうれしいです。
【つながり】
収穫が終わったバイトの最終日。
「来年もよかったらまた来てくださいね」って農家さんに言われました。
残念ながらあれから熊野に行く機会はありませんが、梅のシーズンになると「今年の収穫はどうなんだろう」と気になっています。
あのとき知り合った熊野の人たちの中には、いまでもSNSで繋がっている人が大勢います。
お祭りやら農作業やら。過去から受け継いだ日常が今日も続いているようです。
■風で心が循環するように
会わない時間が長くても生まれたつながりがなくなるわけではありません。
思い返すと大して恩返しできてないような気もしますが、いつかきっと熊野に帰りますね。
その時はまた採れたての野菜や猟師さんが持ってきてくれた鹿肉でバーベキュでもしませんか。