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初夢と日記帳と

初夢なのだろうか、謙也はこんな夢を見た。真新しい日記帳にこんなことを書いた。

砂漠の中を彷徨って
砂糖をさがしながら
ひたすら歩いていた
夢を見た。

とても高価な砂糖で
ペルシャ猫が嘲笑う
おまえの頭では
とても無理だと。

雑誌の中の写真があり、乾いたグレーの砂がダイヤモンドの様にキラキラと輝いていた。すべての世界が新しく、光、輝いている。過去を捨て、新天地を、目指す冒険家の様な夢であった。

遠すぎる中東やアラブの世界。謙也は一度だけ、バーレーン経由でパリに行ったことがある。煙草を吸っていたので、アラブ人があからさまに嫌がっていたことを思い出した。しかもトランジットで、空港に待たされている間、アラブ人達が、ベンチに全員寝そべっている姿は、異邦人だけに怖くなったことを思い出した。

二度と中東には行きたくないと思っている謙也は、アブダビ、モロッコやイスタンブールなどに行きたいと思っているのは、映画などの影響だ。特に、アブダビという設定で撮影された映画「セックス・アンド・ザ・シティ2」のロケ地が実はモロッコ。モロッコのオアシス都市、マラケシュの商業地区スークも映画に登場しているそうだ。その映像にときめいてしまった謙也は、虜になった。

網の目のように張り巡らされた細い道の両側には、織物、皮革製品、銅製品、陶器、籐製品、木彫品、香辛料、化粧品など、ありとあらゆるものを売るお店がぎっしりと詰まっていて、マラケシュのスークに行ってみたい。エトランジェとはこのこと思う。

まだ見ぬ世界に行ってみたくなるのは、誰で一緒だ。砂漠の中を彷徨うラブ・ハンターのように放浪の旅に出たい。ところが、謙也は、実は熱帯に弱い。バリ島に行って、寝込んでしまったほど熱帯に弱い体質だ。寒い1月生まれのせいだと自分では納得しているが、寒さも弱い。だから、空想を膨らませているのが、一番いいのかもしれないと思う。

パリの詩人は、パリの裏町でアフリカのことを書いた。すこぶる鮮明に、今、そこにいるかの如く書いた。

『ボードレールはついに逆世界があることを発見した。自分が求めているのがこのような自然と人間による恩恵ではなくて、パリの裏町で感じた、あの都会の喧騒と埃と、あのふしだらなものたちの交流であったということを――。一瓶の中に万物が入りこんでしまう古びた机がありうるということを――。』(松岡正剛 千夜千冊より)

悲しいかな、謙也にボードレールほどの想像力は期待できない。ただ、どこにも行かなくとも本を読めば、世界は広がる。ネットを探れば、映像も画像も数多散らばっている時代だ。それが、謙也の原動力になる。そんな気がした。

「そうだ、京都にいこう」「京都は、ディスプレイの中にある」

そんな時代だ。暑さ寒さも感じないが、気分は味わえる。それもこれも、コロナで学んだせこい技だ。そんなことを思いながら、時代は環境によって変わると実感した謙也であった。単なる腰抜けの戯言に聞こえるのだが。


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