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銭のない奴はどこへ行けばいいのかな

謙也と優子は、朝から鶴巻温泉駅にある「功法の里湯」へ行って来た。ちょうど、駅に着いたら、「7時37分に、代々木上原駅で線路故障があって、新宿駅〜新百合ヶ丘間は運転を見合わせています」とアナウンスが合った。結局、臨時急行に乗ることになったが下りには、それほど影響もなく、スムーズに乗ることが出来た。「良かったね」と優子が微笑んだ。

「弘法の里湯」は、秦野市が運営しているので、検温やマスク着用など厳しくチェックする。65歳以上は600円なので、謙也はいつもそれで入れるのが嬉しい。妻が通常料金、800円で合計1400円を受付で支払った。弘法山の登山客が、登山の帰りに立ち寄るので、温泉のオリジナルスタンプが置かれている。朱肉はいつも霞む位薄いが、謙也は、記念に押している。

弘法山は、秦野市東部にある標高235 mの山で、丹沢山塊の南端に位置する。隣接する権現山、浅間山とともに弘法山公園となっているため、地元では、これらの山をまとめて弘法山と呼んでいる。

鶴巻温泉の泉質は弱アルカリ性、カルシウム・ナトリウムイオン塩化物泉で、石造りの「山湯」と檜造りの「里湯」の2種の露天風呂付浴室が男女日替わりで楽しめて、2階、大広間で休憩もできるので、重宝している。

「11時15分二階の待ち合わせね」と優子。いつもは、生ビールの他にもつ煮や冷奴などを販売する売店があるのだが、コロナの影響だと思うが休みだった。仕方がないので、自動販売機で「麒麟一番搾り」500ml缶を1本買って、二人で飲んだ。「湯船で80歳のおじいさんが調子悪そうだったので、インターホーンで係員を呼んで、湯船から出して貰ったよ。五人位のスタッフが来ても百キロありそうな裸のお爺さんを着替え室に運び出すのに難儀していた」と優子に報告した。

「その爺さん、救急隊員が駆けつけたとき、名前も住所も年齢もちゃんと言える。しかも足が不自由なのに、歩いて帰ると言い出した。私にも隊員が湯船の状況を聞きに来たので、素直に話した。そんなすたもんだが合ったんだよ」と優子に話したが、それほど興味を示さず、スルーされてしまった。人間の体重は、ぐたっとなると重く感じる。親切な人と二人で持ち上げようとするがとても手に負えないので、インターホーんでスタッフを呼んだ。しかも全裸のお爺さんだ。

「心配していた帰りの電車だが、11時過ぎには、再開したらしく、順調に帰れた。駅について、びなウォークの一番奥に回転寿司の「はま寿司」がある。「寿司でも
食うか」と謙也が言うと二つ返事で、笑顔が優子から帰ってきた。

外で待っている位混んでいた。人並みをかき分け、ペッパー君の受付で、どの席でもOKの受付をした。三十人以上待っていた客がどんどん、減っていく。と言うよりも電子掲示板の番号が近づいて来ていた。待ち時間は、10分程度で済んだ。「やっぱり、どちらでもの席は、早いね」とカウンター席に誘導された。

コロナの今だから、仕切り版が一人一人に置かれている。その仕切り版を外して、座った。昔だったら、注文しなくても、勝手に寿司が流れていたが、今は、全てタッチパネルから選んで注文する。出来上がったら、席のすぐそばに来ると音で知らせが来る。各席で音が鳴るので煩いくらいに店中が機械音で騒がしい。

生ビール、マグロ、穴子、唐揚げ、レモンサワー、ポテトフライ、寒ブリ、日本酒、かんぴょう巻きとタッチパネルを押した。いちいち店員を呼んで注文するより効率的で、間違えがない。注文確認もタッチパネルで確認できる。まぐろ、かんぴよう、たこ、寒ぶり、穴子など百円皿だけを頼んでいた。

目の前もメニューで塞がれ密、密、密の大混雑だが、それを感じさせない回転寿司の対応のうまさに驚いてしまった。8時までの営業自粛で様々な飲食店が、苦難な状況だ。そんな折、駅前で息子の焼き鳥屋を経営している創太に会った。給付金もあるので、のんびりと平和な顔だった。「むしろ、早く帰れるから家族にとっては、楽しいんじゃない」と優子が言った。自粛によって、新しいライフスタイルが生まれるとは思わないが、新しい価値観が誕生しているのかもしれないと思った謙也であった。

植木等が歌った「だまって俺について来い」という青島幸男の作詞の歌がる。この歌は、右肩上がりの高度成長期に唄われていた。

ぜにのないやつぁ
俺んとこへこい
俺もないけど 心配すんな

無責任だが、そんな気持ちで生きようと言う意味がある。「政府も自治体も無責任を通り越して、税金を取るけど、何にもしないという責任逃れしかやらない責任回避の時代に成リ下がってしまった。残念で情けない」と謙也は悔しがっている。時代がかわった。令和は冷酷の令だ。人間が生き延びれるのか心配なくらい冷酷だ。

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