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ビリー・ホリデイというジャズシンガーの人生

生野象子著の『ビリー・ホリデイとカフェ・ソサエティの人びと』を読んでいる謙也。大学生の頃、新宿にジャズ喫茶がたくさんあった。「ピットイン」みたいな有名店からボーカル専門、ピアノ専門と、差別化を図るために様々な店があった。

特にボーカルの店は、ジャズ界でも異例だった。ジャズシンガーが珍しい。そこで、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、サラ・ボーンなどを聴いた。この本に登場するビリー・ホリデイの「奇妙な果実」を聴いたかどうかは、分からない。「奇妙な果実」は、高校教師の作詞作曲だ。この歌を聞いた時、ビリーはギターリストの父親の生涯を思い浮かべたそうだ。

「奇妙な果実」とは、リンチにあって虐殺され、木に吊りさげられた黒人の死体のことで、歌詞は「南部の木には、変わった実がなる・・」と歌い出し、木に吊るされた黒人の死体が腐敗して崩れていく情景を描写したものだ。

このような残虐な曲の内容に誰もが心配したビリーのライブが終わった。会場で大喝采を浴びた。まるで、ビリーのために誕生した曲のように。それは、黒人社会が持ち続ける深い闇の中を探るようなものだったと謙也は思う。

この本のAmazonでの紹介文を読んだ謙也。何よりも生野象子という女性がレポートした本であることに驚かされた。女性だから聞ける部分も多いが、ハーレムやグリニッジ・ヴィレッジなどでの取材は、男でも命の危険が伴う。そこでの取材は、命懸けだと思った。

『時代の熱、淡々とした歌声、変動する社会――。もうひとつのジャズの時代を歩く。
黒人差別の時代、虐殺され木に吊るされた黒人を歌った「奇妙な果実」。あまりに暗い影を落とすこの歌に惹かれた著者は、渡米し、グリニッジ・ヴィレッジを歩き、クラブの跡地を訪れ、当時のことを知るあらゆる人物と会い、多くの話を聞きにゆく――。華々しくも悲劇的なビリー・ホリデイの生涯と、悲しくも熱いジャズの時代を追いかけて、「奇妙な果実」の舞台裏にせまる、魂をゆさぶるノンフィクション。』

実際に、何度かニューヨークに行ったことがある謙也だが、1ブロック行くと、街の雰囲気がガラッと変わる。殺人がいつ起こってもおかしくないほど危険な匂いを感じた。それは、謙也の思い違いかもしれないが、新宿だって、間違えた場所に行けば、とんでもなく危険だから、匂いで察知するのが普通だ。

『米国発の「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命も大切だ)運動は世界的な広がりを見せ、日本にも波及した。自分たちの声に耳を傾けてほしいと願う彼らの思いは切実だ。日本在住の黒人たちの体験談を共有することで、「差別・迫害に怒る黒人」のイメージを超えた多様性が見えてくる。』というnippon.comのニュースは、2020年のものだから驚きだ。まだ、何も黒人問題は解決されないままの状態だ。

そういう謙也もハーレムやスラム街にいけるほど勇気もなければ、度胸もない。偏見や差別を無意識に行なっている。深い知識を認識があれば、違うかもしれないと思いう。以前も朝、ニューヨークを一人で散歩していた時。メインストリートを歩く分には、日本と変わりはないが、2〜3ブロック向こうに、路上で屯する黒人の姿があり、それだけでも恐怖感が湧いていた。ただ、雑談しているだけでも怖いと映る。

日本に住んでいる黒人の人は、10人20人と一緒にいないので、恐怖感はない。福生の米軍基地内のディスコを覗いた時は、びっくり仰天の黒人だけの会場だったが、日本人の女性も多くいたので、恐怖感はなかった謙也であった。

話をカフェ・ソサエティに戻すと、
INTERLUDE by 寺井珠重よると『カフェ・ソサエティは、ナイトクラブでリベラルな気風を守るため、出演者には「店内でのクスリは厳禁」という業務規程を課して、できるだけヤクザとの関わりを避けたそうです。その反面、繁盛店ですから、いつも客席が静かにショウを鑑賞するわけではなかったようで、ビリー・ホリディはステージで客席に向かって、Kiss my Assとばかりに、ドレスの裾を繰り上げお尻を見せたこともあったそうです。イブニング・ドレスには下着をつけないのが普通なので、えらい騒ぎになったとか・・・
 「奇妙な果実」はルイス・アレンというペンネームで詩作をしていたブロンクスの高校教師、アベル・メアプールが南部で樹木に吊るされた凄惨なリンチ写真を見て創作したもの。「奇妙な果実」の作者は、意外にも、黒人のジャズ&ブルース歌手を妻に娶ったユダヤ系白人人だった。「奇妙な果実」を最初に気に入ったのはホリデイではなくハモンドで、リベラルな「カフェ・ソサエティ」のイメージにぴったりだと、ビリー・ホリディに歌わせて大評判になり、店のテーマソングになりました。』だそうだ。

色々な意味で差別や偏見が存在している。そんな中でのこの本は、本音が書かれた秀逸な内容だった。謙也も様々な場面で勉強になったドキュメンタリーだった。「幸せになればいい。幸せな気持ちになれるだけでいい」そんなことを思った本だった。


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