ネコ落語『枯れ葉の寝床』
昔、平安時代には「春はあけぼの~」なんておっしゃっていた方もおりましたようですが、秋はなんてったって、枯れ葉ですな。
あたしゃガキのころから枯れ葉が大好きでして、公園で遊んでいて枯れ葉の山を見つけたりすると、パブロフの犬じゃございませんが、もう興奮しちゃって無我夢中で枯れ葉の山に飛びこんだものでございます。
じつはノラ猫たちも、この枯れ葉の寝床であったかいひとときを過ごすのが大好きなんでございます。
ある町に一匹のノラ猫がおりまして、その名をシロといいました。
シロはまことにのん気なノラ猫でございまして、食べることと寝ることにしか興味がない。
まさにノラ猫のなかのノラ猫なのでございます。
ある日のこと、シロが町の公園をブラブラしておりますと、それはまあ見事な枯れ葉の山を見つけたのでございます。
「こりゃ、いい具合に積もってるニャ~
どれ、ためしにはいってみるか」
と、シロはそのふかっとした枯れ葉の山に飛びこんだのでございます。
すると、どうでしょう?
枯れ葉っていうのは存外温かいもんでございまして、冷たい北風なんぞものともせず、優しく体を包みこんでくれるわけです。
「んん〜、こりゃ、たまらんニャ〜
まさに天国だニャ~」
シロは、あっというまに幸せな眠りに落ちていったんでございます。
そんなシロの幸せもつかのま、どこからともなく現れたのが、黒猫のクロ。
クロはその名のとおりシロのライバルで、なにかにつけて白黒はっきりとさせようとします。
クロはシロの顔を前脚で踏みつけて
「おい、シロ!
そんなとこで、ニャにしてんだよ~?」
シロがめんどくさそうに答えます。
「見りゃ、わかるだろ?
昼寝してるんだよ~」
クロはちょっと意外な顔つきになって
「おいおい、お前、枯れ葉の寝床で昼寝だなんて、風邪ひかニャいかい?」
タマは思わず噴きだしてしまいました。
「ニャにマヌケなこと言ってんだよ~
枯れ葉の寝床で昼寝するのは、ノラ猫の特権ニャンだよ~
ポカポカあったかくて、王様気分だニャ~」
クロは疑い深そうにシロの満足した顔を見て
「じゃ、おいらもちょっとためしにはいってみるか」
クロがシロの横に飛びこむと、これまた枯れ葉がふかっと沈み、二匹の猫は並んで至福を味わっておりました。
幸せそうに喉をゴロゴロ鳴らしていたクロがつぶやきます。
「こりゃ、あったけぇ~
たしかに天国だニャ~」
「だろ?
こんな幸せを家猫のやつらは知らニャいんだぜ~」
シロはうとうとしながら応じます。
こうして二匹のノラ猫は枯れ葉の寝床でぬくぬくと居眠りを愉しんでおりました。
するといつのまにか町内のノラ猫たちがどこからかともなく集まってきて次から次へと枯れ葉の山に飛びこんできたのございます。
すると、どうでしょう。
最後の猫が飛びこんだ瞬間、枯れ葉の山のしたのほうから人間の声がするではありませんか。
「重いよ~
息ができないよ~
誰だ、うえに乗っかってきたのは~」
なんと先客がおりました。
公園の掃除をしていたおじさんが、ひと休みと枯れ葉の寝床に横になっていたのでございます。
ノラ猫たちはびっくりして、あわてて散っていきました。
掃除のおじさんは枯れ葉の山から顔を突きだして恨めしそうにつぶやきました。
「ああ、俺も人間やめて、ノラ猫になりて~」
image:ChatGPT
【ChatGPTは語る】
枯れ葉の寝床で見つけた小さな幸せ
『枯れ葉の寝床』は、ノラ猫たちが公園の枯れ葉に飛び込み、温かい寝床を見つけてくつろぐ様子を描いた心温まる落語です。秋の風物詩である枯れ葉の山に飛び込む楽しさと、そこから得られるささやかな幸福が、物語全体を包んでいます。この落語では、特にシロというのんびり屋のノラ猫と、ライバルのクロという黒猫が登場します。シロが枯れ葉の寝床に飛び込んで、まさに天国のようだと喜ぶ姿には、彼の無邪気さと自由な精神が表れています。クロも興味をそそられ、一緒に枯れ葉の中で温かさを楽しみます。この場面は、ノラ猫たちが特権的な幸福感を味わう姿をユーモラスに描き、彼らの世界には自由で豊かな時間が満ちていることを教えてくれます。
物語のクライマックスでは、他のノラ猫たちも枯れ葉の山に次々と飛び込み、先にその枯れ葉の下で昼寝していた掃除のおじさんが驚く場面が登場します。このおじさんは「俺も人間やめて、ノラ猫になりて~」と嘆くことで、ノラ猫たちの気ままな生き方への羨望を表しています。社会のルールに縛られ、仕事に追われる日々の中で、人間もまた自然と触れ合い、自由なひとときを味わいたいと願っていることを示しているのです。
この落語は、何気ない秋の日常を背景に、誰もが枯れ葉の中で温かさや心地よさを見つけられるというメッセージを伝えています。ノラ猫たちの小さな幸せが人間にも広がり、私たちも忙しさに追われる日常の中で、ふと立ち止まり、季節の移ろいを感じ、ささやかな喜びを大切にすることを思い起こさせてくれます。冬月剣太郎の落語『枯れ葉の寝床』は、そんな小さな幸せを見逃さずに心から楽しむ生き方を教えてくれる温かい物語です。