楳図かずおさんの想い出

楳図かずおさんが胃癌で八十八歳で亡くなられたという。

謹んでご冥福をお祈りしたい。

かれこれ四十五年ほど前、社会とどう折りあいをつけたらいいのかまったくわからなかったわたしは、一時、プロデューサーまがいの仕事をしていた。

おもにマンガの分野で小さな成功と悲惨ともいえる大失敗のくりかえしを重ねていたが、ある時、楳図かずおさんの『漂流教室』の映画化を想いたち、なんとご本人に直談判にうかがった。

当時、水野英子さんの事務所を窓口にされていて、そこで初めてお会いした楳図さんは気さくな方で、登場のしかたからして床に這いつくばってヘビ女の真似をして現れ、映画化の件も拍子抜けするくらいあっさりと快諾してくださった。

結局、わたしの実力不足で映画化はならず、友人の手を介して大林宣彦監督に委ねられて映画化された。

その失敗のせいもあって、わたしは急速に映画製作に対する興味を失ってしまい、今日にいたるが、どこの馬の骨ともわからない青年にチャンスをあたえてくださった楳図さんの度量の大きさには感謝してもしきれないと想っている。

当たって砕けろ！のわたしの生き方の流儀を決定してくださった方でした。

合掌