【戯曲】「星空」液体猫
A 48歳男性
B 45歳男性
午前2時。星が満点の空。屋根に座っている一人のおじさん。
そこへ、コンビニの袋を持ったBが窓から屋根に出てくる。
A おー、なに。来たの?
B うん。仕事終わったから。
A そっか。わざわざありがとな。
B 大丈夫。(袋を掲げて)これ、好きでしょ
A おー、ありがと。
B、袋からビールとサンドイッチを取り出し、Aに渡す。
B,Aの隣に腰を下ろす。
A そのへん、鳥のうんこあったぞ。
B、慌てて立ち上がる。中腰のまま、スマホの懐中電灯にして座る場所を見ている。
B 早く言えよ、それ。オレ今スーツだぞ。
A、笑っている。座る場所を見つけたBは、ゆっくり座る。
A お前も飲むの?
B いや、俺はお茶飲むわ。メシこれからだから。
Aはビールを開け、Bはペットボトルをあけて乾杯する
Aはサンドイッチを、Bはかつ丼を食べる
A で?どうなの?仕事は。
B まーボチボチだよ。
A でも、忙しいんだろ。今日おばちゃんから聞いたけどさ。
B おかん来たの?
A うん。会ってねえの?
B 駅からタクシーで来たから。
A そっか。いや、おばちゃんがさ、お前忙しいって言ってたから今日来ねえと思ってたわ。
B 今日は早く終わったんだよ。本当は明日来るつもりだった。
A 忙しいのにありがとな。今日泊まってくんだろ?
B 駅前のホテル取ってあるから大丈夫。
A なんだよ。泊まってけよ。
B 気つかわせるのも悪いからさ。
A そんなの気にすんなよ。昔めっちゃ泊まってただろ。
B やることたくさんあるんだから、今日はしっかり休めよ。
A そんなにやることあるの?喪主って。
B ないよ。
A ないんだ。
B 親父のときはね。だってパックだったし。
A うちもパックにした。あれ楽だよなあ。
B パックあるんだ、田舎なのに。
A パックは田舎関係ないだろ。たしかにばあちゃんのときにはなかったけど。
B お前食いながら話すなよ。メシめっちゃ飛ぶんだけど。
A 悪い悪い。
B 喪主はさ、最後に喋るじゃん。あれ、考えたの?
A あー……。
B 考えておけよ。適当ってわけにはできんだろ。
A いやさ、あれってあんまり誰も聞いてないと思うんだけど。聞いてるもんかな。
B 聞いてるでしょ、みんな。下向きながら。
A だって、俺、おじさんの葬式のときのお前の言葉、なに話してたかなんて全然覚えてねえよ。
B それはお前の記憶力の問題じゃね?
A オレのせいにすんなよ。確かにバカだけど。
B そこは認めるんだ。
A いや、だからさ。喪主の言葉っているか?って思ってさ。
B おばさんの知り合いとか来るから、適当にはできないでしょ。
A もちろん適当に「(大泉洋みたいに)ありがとうございました」なんて言わないけどさ。
B ダメだろ。それは。
A だからやらねえって。身近過ぎず長すぎず、お礼だけでいいだろ。
B それが難しいんだよなあ。
A うーん。
しばらくして、A、シーシー言い出す。
B なんだよ。
A ちょっと、つまようじちょうだい。
A、つまようじで歯をシーシーする。取れたようだ。
A 肉食うとさ、なんか詰まりやすいんだよな。
B こまめに歯医者行けよ?おれなんかこないだ結構虫歯で大変だったんだから。
A へえ。マメだな。
B オレらぐらいの年齢になったらメンテしないとな。いきなり大病ってのも嫌だし。
A まあな。あれ、それ残すの?
B ああ、ちょっとくどくて。食う?
A じゃ、もらうわ。
A、Bの残したかつ丼をもらって食べだす。
A なにこれ、このかつ。めっちゃパサパサじゃん。
B かつ丼だからでしょ。
A かつ丼だとこんなにパサパサなの?
B 知らないけど。卵でとじてしっとりするから多少はパサパサ肉使ったんじゃないの?
A いや、それにしてもパサパサすぎでしょ。これシーチキンじゃん。
B いや、シーチキンもそこそこしっとりだよ。
A 雰囲気の話だよ、雰囲気の。
B なに、シーチキンの雰囲気って。
A これはあかんでしょ……。おれのサンドイッチはプリプリ肉だったぜ。
B サンドイッチは水分ないからプリプリ肉でしょ。
A いや、多少は水分あるよ。キャベツの。
B どんだけキャベツの水分量に期待してんだよ。
A 卵を信じすぎなんだよ、このかつは……。
B じゃあもう食うなよ。
A あ、あぶねえ。落ちるだろ。
AとB,笑う。
B あれ、昔もこんなんやってて落ちたんだっけ?
A そうそう。なんか笑ってふざけてたら転がって落ちた。
B あれさ、おじさんすっげー怒ってなかった?
A 怒ってた。二人殴られたよな。
B 殴られた。
二人笑う。
A あー。酒ねえから取りに行ってくるわ。
B おれも飲もうかな。
A お、いいねえ。
B なんかつまみある?
A 菓子でいいならお通夜でたくさんもらったからあるぜ。
B じゃ、それもらおっかな。
AとB、立ち上がって去る。
おわり
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