背徳の腹部エコー検査(伊勢崎おかめ)

腹部エコー検査を受けたことがおありだろうか。

薄暗い部屋で、技師が被検者のお腹にジェルを塗り、超音波の出る機械をぐりぐりと押し当てて、内臓に異常がないかを診る検査である。

年に一度、職場の健康診断で腹部エコー検査を受けるのだが、このとき、息を大きく吸ったり吐いたり、または止めなくてはならない。技師の「大きく吸って~、吐いて~」という誘導に従って呼吸をするのだが、この誘導がとてもへたくそな技師がいる。「大きく吸って~(吸ったあと数十秒息を止めている)……はい吸って~」て、おいおい!さっきから吸いっぱなしでもう吸い込んだ息を入れるとこないんだが?この逆パターンで、「息吐いて~……はい吐いて~」というのもある。「もう吐くもんないわ!」と言いそうになることもしばしばである(ちなみにこの時、脳内に必ず流れる曲は、河島英五氏の『酒と泪と男と女』のサビ部分である。♪吐いて~吐いて~もう一回吐いて~)。かと思えば、吸って吐いての間隔が短すぎる技師もいる。「ちょうどよい呼吸のタイミングを心得た技師はおらぬか!」と、私の心の中の鬼殺隊が荒ぶる。

とにかく、この検査は時間が長く、そして呼吸のタイミングが難しいので苦手だ。

検査が終わると、技師より「はい、これで終わりです。横にあるティッシュで、お腹のジェルを拭いてくだいね」と声をかけられる。ジェルは、冷たいときもあるのだが、だいたい、ひと肌程度に温められていることが多い。薄暗い部屋で、よく知らない男性(技師)と二人、ベッドに仰向けに寝た状態から上半身を起こし、腰を軽くねじって男性に背を向け、お腹の上にひろがる透明な生温かいぬるぬるしたものをティッシュで拭きとっているとき、「お母さん、ごめんなさい」と、なんだか悪いことをしているようなやるせない気持ちになり、背徳感を覚える。私はそういう仕事をしたことがないが、そういう商売をしているような気持ちになってしまい、技師に対して「お客さん、終わったんならさっさと帰りな」などと言ってしまいそうな、そんな気分を、女性の方ならきっと共感して頂けるに違いない(※そういう仕事が悪いなどと非難するつもりは毛頭ない)。

そしていつも、肝臓に「何かある」とひっかかる。お酒は一滴も飲まないのに、なぜ肝臓に異常があるのだろうと不思議である。「また腹部エコー検査でひっかかるんだろうな」と思って検査に臨むのは、気が重いものである。

つまり、何が言いたいかというと、私は、腹部エコー検査が苦手だということである。今年こそは、呼吸誘導の上手な技師に当たりたいものである。

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