フィリップ・K・ディック「マイノリティ・リポート」を読む2
(1)で述べた、被害妄想的世界というのは、作品のごく一部の見方に過ぎない。
本作のキモは、予知能力者を使って、犯罪者を犯行前に逮捕していた警察組織「犯罪予防局」の長官、アンダートンが、こともあろうに潜在的殺人者として追われるというところにある。
潜在的殺人者とは何か?
それは3人の予知能力者たちに予言された、将来、殺人を犯す可能性の高い人物のことである。
この未来社会では、殺人が起こる前にその人物を捕らえる。
よって、殺人事件の発生率は、奇跡的にゼロなのであった……。
それは治安という面ではユートピアかもしれないが、果たして100%冤罪を生み出さないと言えるのだろうか?
追われる立場になって、初めて、アンダートンはそう懐疑的になる瞬間もあった。
しかし、陰謀をしかけた退役将軍カプランのもくろみによって、警察権力を軍に吸収されないためにも、このシステムを堅持するために行動することを決める。