フィクションを「ケア」することは可能か(1)
フィクションの感触を求めて(第二回) 勝田悠紀
0.はじめに
「ケア」という言葉を頻繁に目にするようになった。さまざまな文脈でこの概念が取り上げられ、語られている。
そのきっかけのひとつとなったのが、昨年夏に刊行され、すでにこの媒体でも取り上げられている、小川公代の『ケアの倫理とエンパワメント』(注1)である。タイトルにある「ケアの倫理」は、義務論や帰結主義といった既存の学説にかわる倫理観で、1982年にキャロル・ギリガン『もうひとつの声』によって提唱された。『ケアの