【エッセイ】松尾スズキ「家々、家々家々 ~男、松尾スズキ。魂の物件漂流物語~」【新連載第1回】
とにかくつねになにかにせっつかれ、ずっと軽度か中程度のパニック。そんな精神状態が続いていた。
今、思い起こせば、なかなか明るいパニックではあったけど。
そのパニックの中でわたしは、希望を感じたり、絶望したり、人を疑ったり、次の日に信じすぐまた疑ったり、笑ったり怒ったり、10年分ぐらいの高カロリーの感情が毎日のように噴出し、不安と恐怖と、それでも隠しきれないエンターテイメント感の中で、なんとか喚き散らさず60歳の人間らしくふるまおうと、ひきつった笑顔でおのれを律してい