【書評・倉本さおり】三木三奈『アイスネルワイゼン』――明滅する現実の死角
どんなに十全に描かれているように見えても、小説を通じて提示される視界には限りがある。達者な書き手ほど読者にその不自由を感じさせずに作中の世界を同期させる仕事をやってのけているわけだが、そこに意図的に遮蔽物が持ちこまれている場合はまた別の問題がたちあがる。そうやって覆いがかけられることではじめて輪郭を得るものを通じ、読者自身がおのれの視界の欠けや偏りを検めていく必要があるからだ。
本書の表題は作中でも触れられているとおり、サラサーテの名曲「ツィゴイネルワイゼン」(「ロマの