【論考】真山仁「秘すれば花――玉三郎の言葉」
二〇二三年六月一一日――。
その日、私は京都にいた。気温は東京より低いのだが、ひどく蒸し暑く、首筋からふき出る汗が止まらない。
学生時代を京都で過ごした私は、その不快さを懐かしく感じたものの、年を重ねた体には、苦行でもあった。
コロナ禍が落ち着き、京都のまちにも人が溢れている。
鴨川には川床が並び、京都は、夏本番の準備を整えつつある。
暫し木陰で休み、汗の引いたところで、京都南座に向かう。
歌舞伎発祥の地に建つこの殿堂で、『星降る夜に出掛けよう』のゲ