R6司法試験 再現答案(刑訴法A ・61-63点)
刑訴法は推定61-63点ぐらいです
違法性証拠排除法則の規範がグダグダで、
「希釈化」というキーワードも出さなくて、
この点数だったので、多めに見てくれたんでしょうかね。
来年受ける人の参考になれば幸いです。
(僕も受けますが…泣)
◯再現答案
第1.設問1(以下、条文数のみは刑事訴訟法)
1.鑑定書は、Pが捜索差押許可状に基づいて差し押さえた結晶が覚醒剤であるとの鑑定結果を記載している。また、同捜索差押許可状は、捜査報告書①及び捜査報告書②を疎明資料として請求し、令状裁判官により発付されたものである。そこで、まずは捜査報告書に記載されている職務質問・所持品検査等が適法であるかを検討する。
2(1)まず、Pが甲に対して行った「質問」は警察職務執行法(以下「法」という)2条1項を充足するか。
Pは本件アパート201号室を拠点として覚醒剤の密売が行われているとの事前情報を得ていた。また、201号室から出てきた人物は、本件封筒を甲に手渡し、甲は、本件封筒を本件かばんに入れた。覚醒剤は粉状で小さいため、封筒に入る大きさであり、封筒を甲に渡した人物が覚醒剤の拠点と疑われる201号室から出てきたことをも考慮すれば、同人が甲に渡した封筒には覚醒剤が封入されていることが推測される。さらに、覚醒剤取締法によれば、覚醒剤の所持は禁止されている。そうすると、甲は覚醒剤所持罪という「犯罪を犯し」たと「疑うに足りる相当な理由のある者」といえ、「質問」することができる。
よって、Pが甲に対して行った職務質問は、法2条1項を充足するため適法である。
(2)次に、Pが甲の前方に回り込んで、甲を「停止」させた行為は適法か。
ア 法2条1項によって、「停止」させることができる。他方で、停止が「身柄を拘束」するものであれば許されない(同3項)。「身柄を拘束」とは、刑訴法上の「強制の処分」(197条1項但書)を意味し、「強制の処分」にあたる「停止」行為を行うことは許されない。
イ(ア)「強制の処分」意義が明らかでないため問題となる。「強制」という文言から、相手方の意思に反することは明らかである。また、刑訴法上の規定されている「強制の処分」(検証・捜索等)は、厳格な要件によって規律されていることから、厳格な規律に相応する、憲法33条や35条が保障するような重要な権利利益への侵害・制約が問題となる場合にのみ「強制の処分」というべきである。
そこで、「強制の処分」とは、①相手方の明示又は黙示の意思に反し、②重要な権利利益の実質的に侵害・制約するものをいう。
(イ)①Pによる「停止」行為は、甲の黙示の意思に反するものであったと認められる。②しかし、Pは、逃げようとする甲の前方に回り込んでいるものの、甲を取り押さえたりしていない。そうすると、甲の身体の自由への制約の程度は低く、重要な権利利益を侵害・制約するものとは認められない(②不充足)。
したがって、「強制の処分」にはあたらない。
ウ.他方で、行政警察比例原則(法1条2項)に服することから、「停止」行為は「必要な最小の限度において」用いられなければならない。そこで、必要性・緊急性等を考慮した上で、具体的状況の下で相当な手段と認められなければ、停止行為は違法となる。
覚醒剤所持罪等は、最大「10年」の懲役が科せられる重大犯罪である。また、覚醒剤密売の拠点であると疑われる本件アパートの201号室から出てきた人物が、甲に対して、覚醒剤が入っていると疑われる本件封筒を渡していたのであり、甲に対する嫌疑は十分であった。さらに、甲は異常に汗をかき、目をきょろきょろさせる等、覚醒剤常用者の特徴を示していた。そのため、Pは甲に対する質問を継続する必要があった。にもかかわらず、甲は逃走しようとしたのであって、甲を停止する必要性が認められる。他方で、Pの停止行為は、甲の身体の自由をさほど制約するものではないことから、必要性・緊急性が権衡を欠くことはない。
したがって、Pの停止行為は適法である。
(3)さらに、Pが甲に行った所持品検査は適法か。
ア 所持品検査は、職務質問の効果を上げるために有効な方法であり、職務質問に付随して認められる。一方で、法2条3項に照らして、「強制の処分」に至る所持品検査は許されないのであって、相手方の意思に反しない、すなわち承諾のある限りにおいて認められる。
本件では、Pはいきなり甲の本件かばんを開けている。そうすると、本件の所持品検査は、相手方である甲の承諾を得たものとはいえない。
イ 他方で、常に承諾を得なければ所持品検査ができないとすると、刻一刻と変化する状況に対応せねばならない行政警察活動を全うすることが困難となる。そこで、相手方の承諾を得ていなくも、「捜索」に至らない程度の所持品検査であれば許されると解する。
Pは、甲の承諾なく本件かばんのチャックをいきなり開けた上に、その中をのぞきこみながら在中物を手で探っている。そうすると、このような所持品検査は、甲の「所持品」に対して「侵入」するものであり、憲法35条によって保障される権利利益を実質的に侵害・制約する処分と言わざるをえない。
そうすると、本件の所持品検査は「強制の処分」であるから「特別の定め」(197条1項但書)である捜索令状(218条1条)なくして行うことができない処分であったといえる。にもかかわらず、Pは令状なくして所持品検査を行っており、令状主義(218条1項)に違反している。
ウ よって、所持品検査は違法である。
3.では、違法な捜査により収集された証拠は排除されるべきか。この点につき、刑訴法は違法収集証拠を排除すべきであるかについて明文を置いていない。他方で、適正手続の原則(憲法31条)等に照らせば、①違法が重大であり、②令状主義を没却するような意図の下に収集された証拠は、証拠から排除されるべきである。
①上述のとおり、Pが行った所持品検査は、甲の承諾なく「所持品」に「侵入」するものであり、違法は重大である。②また、Pは本件かばんの所持品検査を行うに際して、捜索令状を取得するような素振りを見せていないのであり、令状主義を没却するような意図があったといわざるをえない。
したがって、違法な所持品検査により収集された注射器は違法収集証拠として排除される。
4.そうだとしても、派生証拠である鑑定書までを証拠から排除すべきであるかが問題となる。この点につき、将来の違法捜査抑止の見地から、(ⅰ)証拠の重大性、(ⅱ)違法の重大性、(ⅲ)第1次証拠と第2次証拠(派生証拠)の関連性の程度を考慮した上で、派生証拠を排除すべきであるかを判断する。
(ⅰ)まず、甲が覚醒罪を所持していることを証明するためには、甲が所持している結晶が覚醒罪であると示す証拠が必要である。そうすると、本件に係る鑑定書は甲の覚醒剤所持罪を基礎づける重要な証拠であるといえる。(ⅱ)他方で、上述したとおり、Pが行った所持品検査の違法は重大であった。
(ⅲ)もっとも、Pが甲方を捜索することに先立ち、令状裁判官による適法な捜索差押令状の発付が介在していることから、所持品検査の違法性が消失ないし減殺されないか。
たしかに、Pは裁判官に対して甲方の捜索を求める令状を請求しており、令状裁判官は同令状を発付している。他方で、Pは同令状を請求するに際して、捜査報告書②に、上述の所持品検査を行った旨の記載を怠っていた。Pが、所持品検査の態様を記載しなかったのは、P自身が、同検査は「捜索」に至る違法なものであったことを認識していたことから、令状裁判官に、かかる事実を知られたくなかったものであると推測される。そうすると、Pが捜査報告書②を疎明資料として、令状裁判官から捜索差押令状を得たとしても、それにより違法性が減殺されるものではなく、むしろ違法性が増強されているといえる。
したがって、捜索差押令状の存在によって所持品検査の違法性は消失ないし減殺されることはないのであり、第1次証拠と第2次証拠は関連するものと認められる。
5.よって、派生証拠である鑑定書は、証拠から排除される。
第2 設問2
1 捜査①
(1)捜査①はビデオカメラを用いた捜査手法である。このような捜査手法は刑訴法上に明文がないことから、「強制の処分」にあたれば「特別の定め」(197条1項但書)を欠き、強制処分法定主義違反になることから問題となる。
(2)捜査①は「強制の処分」にあたるか。
ア 「強制の処分」の意義については上述のとおりである。
201号室から出てきた男性(以下「乙」という。)が、仮に、捜査機関からビデオカメラ撮影されている事実を知れば、これを望まないと推測される。そうすると、捜査①は、相手方の黙示の意思に反している(①充足)。
Pは、乙から少し離れた席から乙を20秒間に渡りビデオカメラで撮影している。これは、喫茶店という開かれた空間で行われたものであっても、みだりに容貌等を撮影されない自由を侵害・制約するものである。
イ しかし、みだりに容貌等を撮影されない自由は、人格権の一内容として憲法13条によって保障されるものであるものの、憲法33条や35条によって保障される重要な権利利益ということはできない。そうすると、捜査①は乙の重要な権利利益を実質的に侵害・制約するものであるとはいえない(②不充足)。
ウ したがって、「強制の処分」にはあたらない。
(2)もっとも、「強制の処分」に至らない捜査であったとしても、任意捜査比例原則(197条1項本文)に服することから、必要性・緊急性等を考慮した上で、具体的状況の下で相当と認められる手段でなければ、197条1項本文に反して違法となる。
ア Pの従前の捜査によれば、乙の首右側に小さな蛇のタトゥーがあることが判明していた。すなわち、201号室から出てきた男性の首に蛇のタトゥーがあることが分かれば、同男性を乙と特定することが可能となる。そのため、喫茶店の男性の首にタトゥーがあるかを特定するためにビデオカメラ撮影する必要があった。また、首のタトゥーがあることを証拠として保全するためにはビデオカメラに記録する必要があったのであり、緊急性も認められる。他方で、捜査①では撮影時間が約20秒間にすぎず、乙の容貌等を撮影されない自由への制約はさほど大きいものではない。
イ したがって、捜査①は具体的状況の下で相当と認められる手段であり、適法である。
2 捜査②
(1)捜査②もビデオカメラ撮影であることから、「強制の処分」にあたれば、強制処分法定主義違反になる可能性があるため問題となる。
(2)捜査②は「強制の処分」にあたるか。
ア 「強制の処分」の意義は上述のとおりである。
仮に、乙が自分の居住する部屋の前を3ヶ月もの間、24時間に渡り捜査機関から継続的に監視されていることを知れば、これを望まないことは明らかである。したがって、捜査②は相手方である乙の黙示の意思に反するものである(①充足)。
また、捜査②は10月3日から12月3日までの間の3ヶ月間、24時間、アパートの玄関ドアを撮影し続けるものである。家の中を撮影する捜査ではないものの、期間が著しく長く、間断のない捜査であることから、制約の態様は強度である。さらに、撮影された映像には、玄関ドアの内側や廊下が映り込んでいた。そうすると、捜査②は「住居」に「侵入」する捜査手法であるといえる。したがって、憲法35条によって保障される、乙の「住居」に「侵入」されない権利という重要な権利利益が実質的に侵害・制約されている(②充足)。
イ したがって、捜査②は「強制の処分」にあたる。
(3)「強制の処分」であるから「特別の定め」がなければ強制処分法定主義違反となる。
この点につき、捜査②は、五官の作用をもって、対象物の形状等を観察する「検証」と同視できないか。
しかし、捜査②は、3ヶ月間・24時間、継続的に対象者の個人情報を収集する捜査手法であり「検証」では捉えることができない側面を有する。そうすると、「検証」と同視して、検証令状をもって捜査②を行うことは許されない。したがって、捜査②は「強制の処分」であるものの「特別の定め」を欠いている。
(4)よって、捜査②は、強制処分法定主義違反となる。
以上
◎再現答案作成時の感想
職務質問〜停止行為の適法性あたりは少し冗長だったかもしれない。他方で、違法収集証拠排除や派生証拠の排除の可否については、メイン論点だったのでもっと厚く書くべきだった。それにしても、自分の違収排や毒樹の果実の規範がテキトーすぎる…。
設問2については、こんなものではないですかね。
全体を通じて、「強制の処分」の解釈や適用については、一貫性を示す論述はできたのではないかと思います(そこは良かった)。
設問2の捜査②は、GPS捜査と同様に強制処分法定主義違反としたのだが、どうなのだろうか?