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はじめまして

国分寺のサブリエさんで個展をしたおりオーナーさんがあたしを紹介くださるとき「立川志の輔さんの公式グッズを」作っている、という言葉を添えられた。

本多劇場へのうけたまわりお仕事のことなんだけど公式グッズという響きにドキドキした。そんなふうにも言えるんだな、とあらためて思った。気恥ずかしくもあった。

だがありがたいことに、そのお仕事のおかげで、関係者として志の輔らくごにお招きしてもらう。

今日も今日とて赤坂アクトシアターでの中村仲蔵を鑑賞させてもらった。

美しい瞳の仲蔵が歌舞伎界で精進し、大部屋の稲荷町からついには名代まで位を上げ、上げたゆえに役が付かず、ようやく付いた役が忠臣蔵五段目の斧定九郎だった。

それまで、もさもさの山賊のような装束だったその役を仲蔵は白塗り黒紋付のきりりとしたいでたちに変える。

その定九郎の細部のこまかな描写が生き生きと立ち上がる。すらりと伸びた足、ぬれそぼったさま、てっぽうに撃たれたときの血糊の不気味さ、血のながれの凄惨さ。

それまでになかったことに挑む心意気と不安があった。なんとしたことか、キメの瞬間、客席は静まりかえった。役者の待ち望む歓声が起こらない。失望、絶望。しくじった!

もうだめだ、ここにはいられない、生きていられないと思いつめる。

逃げるように大阪へ向かおうとするその時に、その舞台を見て帰ってきた客がその感動を語る弾んだ言葉が耳に飛び込んでくる。

何度聞いてもそこで泣く。語られない間が、沁みる。その間合いはひとのこころのひだに思いを馳せる時間だ。

志の輔さんの落語の魅力はたくさんあるが、あたしは押し黙った時間にこそ、このひとの人間観察が生きているように感じる。

終演後、あたしもこれまでにないことをした。初めて志の輔師匠にお会いし、文袋である、とご挨拶し、やわらかなその手と握手した。早鐘のような鼓動に戸惑った。

そんな鼓動を収めたくて、このことをだれかに語りたくて、帰り道、近くのカフェ、ジャローナさんに寄り、マスターに一部始終を話した。

マスターは文袋の「意外な面」を見たと笑った。
あたしもそんな意外な自分に、はじめまして!だった。


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