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中国茶のある暮らし――3月のお茶「八宝茶」

長い歴史に磨かれた豊かな中国茶の世界。
四季折々の甘味や食に合わせるお茶を、中国政府公認高級評茶員・茶藝師の澄川鈴が提案します。
心に余裕がなくなりがちな日々だからこそ、めぐる季節を愛で、自分を癒すひとときを。
そして、お茶を通して見える中国の人々の素顔と暮らしにも、ほんの少し触れていただけたらと思います。

3月のお茶請け「ひなあられ」

 3月3日は桃の節句。ひな祭りの由来については諸説あるようですが、もともとは中国の慣習だったものが平安時代に日本に伝わったと言われています。

 旧暦の3月3日はちょうど桃の花が咲く時期。桃の花は邪気を払うとされ、子供の健やかな成長を願う節句として今日まで続いてきたのです。

 そこで今回は、京都の老舗煎餅・あられ・おかき専門店「小倉山荘おぐらさんそう」のひなあられ「春ひいな」と、八宝茶はっぽうちゃの組み合わせを提案します。

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 八宝茶(bābăochá)とは、ドライフルーツや漢方の食品などを具材として入れた伝統的な茶。正式名称は刮碗子茶かつわんしちゃ(guāwănzichá)と言い、もとは中国の西北部に住む回族かいぞくという少数民族が飲んでいた茶の一種のようです。

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 回族は甘粛かんしゅく省・陝西せんせい省と接する自治区に暮らすムスリム民族。海抜の高い同地域は寒く乾燥していて、一帯に砂漠が広がっているために野菜の栽培に適していません。なので、回族の人々は牛や羊の肉や乳製品が中心の食生活を送っています。

 そんな回族にとって、お茶は健康のために欠かせません。なぜなら、茶葉に含まれる大量のビタミンとポリフェノールは、野菜不足の解消だけでなく、油分の分解や消化の促進の助けになるとされているからです。中国では、この刮碗子茶のことを「知恵の飲み物」と呼んだりもします。

 一般的に刮碗子茶に使われる茶は炒青緑茶(炒青とは、釜で炒って茶葉の酸化酵素の働きを止めること)で、リンゴやブドウ、柿、桃、ナツメ竜眼リュウガン枸杞クコなどのドライフルーツを入れます。

 ドライフルーツのほかにも、氷砂糖や菊の花、胡麻ごまなどをたくさん入れることから、先人たちは末広がりの「八」と縁起の良い「宝」を合わせて「八宝茶」という美しい名前を付けたのです。

 ちなみに、八宝茶の「八」は茶に入れるものの種類の数を表しているわけではありません。ここでの「八」は「たくさん」という意味で使われています。中国語にはそうした表現が多く、例えば万里の長城の「万里」も「万」の字は実際の長さではなく「とても長い」という意味で使われているのです。

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「鈴家」が入る「福寿舎」(大阪・高槻市)が、毎年この時期に飾っている70年前のひな人形

 今回、私が用意した刮碗子茶は、陝西省の緑茶「漢中仙毫かんちゅうせんごう」をベースに、定番の棗、竜眼、枸杞、菊の花、氷砂糖、それにトロピカルなマンゴーとパパイヤのドライフルーツを入れてみました。

 この刮碗子茶は、飲み方に特徴があります。そもそも、刮碗子茶を飲むためにはある3点セット(中国語で「三件套さんげんとう(sānjiàntào)」が必要になります。すなわち①茶碗、②ふた、③茶托ちゃたくもしくは皿――です。

 中国の茶器には「蓋碗がいわん」(蓋つきの碗)といって茶碗に蓋と茶托がセットになっているものがありますので、それを使うのが一般的です。「三件套」にはそれぞれに役割があり、茶碗には茶が注がれ、蓋は香りを保ち、茶托は手のやけどを防ぎます。

 では、ドライフルーツなどがたくさん入った刮碗子茶はどのように飲むのでしょうか。

 右手が利き手の人は、左手で茶托ごと茶碗を持ちます。そして、下の写真のように右手で蓋を使って茶を混ぜてから飲みます。これは、①泡を避けて飲む、②ドライフルーツなどの味をかき混ぜる――ためです。

 中医には、古くから伝わる「刮痧かっさ(guāshā)」という治療法があります。水牛の角や石などでできたへら・・を用いて身体をこするのですが、刮碗子茶という名称は飲むときの動作がそれに似ていることから名付けられたようです。

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