東京消費 #12=完 「中国茶会」sandz
ついに最終回を迎えてしまった。まさか、本当に1年も続けられるとは思わなかった。ありがたいことに、毎回更新するたびに感想を伝えてくれた友人や、取り上げた商品を手に取ったり、購入したりしてくれた読者の方もおられる。「さんずさんの連載のおかげで新しい世界を知るきっかけになりました、ありがとうございます」とコメントを頂戴したときは、心の底から嬉しかった。
自分が大切にしているものや、生活の一部になっているものを、誰かと共有でき、なおかつその喜びを分かち合えるというのは、普通に暮らしているとなかなか体験できるものではない。連載を続けてきて、本当によかったと思う。
連載を通じて、僕自身が消費する楽しさを再発見し、もっと何かを伝え、発信できるようになりたいと思うようになった。そんな折に、僕が中国茶を飲み始めるきっかけとなった友人から「東京でお茶会を開いてはどうか」という提案をもらった。
確かに北京留学時代には、数々のお茶屋をめぐり、数え切れないほどのお茶を飲んできた。でも、それは興味の赴くままに、ただ好きなものを楽しく消費するだけのものだった。自分で茶摘みを体験するまでは、どのような工程でお茶が製造されているかさえ知らなかったのだ。中国茶は好きだけれど、でもそれを語るだけの知識が足りない――そう思った。
自信を持てない僕に対して、友人は「知識が足りないなら勉強すればいい。中国茶の何を伝えたいのか、それがはっきりしていればあとはやりながら形になっていくものよ」とアドバイスをくれた。そして僕は友人が開いている中国茶教室の生徒となったのだった。
オンラインで授業が進むなか、これまでは趣味だった中国茶を勉強してみると、新たな発見がたくさんあり、中国茶のことを再認識することとなった。そして、自分のためにお茶を入れることと、誰かのためにお茶を入れることがまったく別物であることにも気が付いた。そうして、ついに初めてのお茶会の日程が決まった。2024年3月3日、ちょうどひなまつりの日に開催が決定したのだった。会場は、僕の地元の品川区にある「寺子屋みろく」をお借りすることになった。
今後、継続的にお茶会を開いていくにあたって、まず自分の屋号を決めることにした。昔から愛してやまない「紫」と、本名の一文字である「俊」を組み合わせて「紫俊茶堂」という屋号にした。中国では紫は吉祥の象徴で、「紫気東来」という成語がある。「俊」には、人の才能や美貌を称える意味がある。少し大仰かもしれないけれど、大きく発展するという願いも込めて、この屋号に決定した。
初めてのお茶会は中国雲南省で作られた「滇紅」という紅茶を2種類提供することにした。1つは2014年に作られたもので、もう1つは2021年に作られたもの。同じ条件でお茶を入れ、同時に飲み比べることによって、味を飲み比べてもらうというやり方だ。
このやり方は、中国のお茶市場でもよく行われている。留学時代にお世話になっていたお茶屋の店主が「好茶是比较出来的」(いいお茶は比較することでわかる)と言っていたのがとても印象的だった。
今回は、製茶された年を伏せて、ブラインドで飲み比べてもらうことにした。事前の情報をなるべく減らすことによって、自分の感覚で「おいしい」「好き」と思えるものを選んでもらいたかったからだった。
お茶会では、入れる前の茶葉の見た目や香り、入れてからの香りや味を楽しんでもらいながら、お客さんにどちらの味や香りが好きかを選んでもらった。7人の意見はバラバラで、古いものも新しいものも同じくらいおいしいという人がほとんどだった。
昼食には、ひなまつりに合わせてちらし寿司を用意し、付け合わせとしてラペソー(発酵させた茶葉を使ったサラダ)と味噌汁を提供した。そうして、第1回目のお茶会は無事に終了した。
自分が今まで趣味としてきた料理やお茶を、このような形で誰かに提供し、それを喜んでくれる人がいる――。これほどに嬉しいことはない。
ふと、この連載の読者の友人に「今後はお茶会を開催していこうと思うんだ」と伝えると、彼は「今までは消費だったのが、これからは創造になるんですね」と言ってくれた。「確かに」と妙に納得し、その言葉が強く心に残った。
中国茶のおいしさや面白さを少しでも伝えられるように、今後は中国茶に関する活動を続けていきたい。1年間、「東京消費」という僕の遊びに付き合ってくださった読者には、心から感謝している。本当にありがとうございました。
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