書店パトロール28 モラトリアム×モラトリアム
美術コーナーに並ぶ本を見ていると、『評伝クリスチャン・ラッセン 日本に愛された画家』という本が目についた。
クリスチャン・リース・ラッセンの評伝である。サーファーであり、画家であり、日本人に人気、アールビバンといえばラッセンか天野喜孝か、である。
ラッセンは人気がある。あのイルカ、あの海の感じ、ヤンキーが好みそうなあの感じ。まぁ、ラッセンに関しては様々なところで語り尽くされている。私は好きか嫌いか、で聞かれると好きである。だが、ラッセンの絵のリトグラフに何十万も払う趣味はない。
さて、そんな横に、ラッセンとはおよそ関わりのない、いや、ある種マインドは似ている『日本の図像 刺青』という本が。安心のパイ・インターナショナルである。
様々な『刺青』が載っている。『刺青』、といえばやはり谷崎潤一郎であり、そして今週末公開の『ゴールデンカムイ』の入墨争奪戦であるが、私は常に刺青、といえば、『TATTOO《刺青》あり』を思い出す。
そして、宇崎竜童といえば、最近Netflixで観た犯罪御伽話『BADLANDS』においても、刺青あり、だった。
『TATTOO〈刺青あり〉』は三菱銀行人質事件をモデルにした映画である。
この映画は1982年の作品、つまりは、『ブレードランナー』と同年なわけだが、ロイ・バッティもまた刺青あり、なのである。
1980年代はいい映画が多い。いや、まぁ、どの年代もいい映画はたくさんあるのだが、1980年代には1980年代の、1990年代には1990年代、というように、時代の匂いが刻印されている。それがFilmなのである。
そんなことを思いながら、私はパラパラと閻魔様などが彫られた図面を見て、おお…と慄くが、然し、私はこの本を買わなかった。そして、演劇本を眺める。
すると、そこに満面の笑みでこちらを見つめる市村正親が。『役者ほど素敵な商売はない』という本である。
市村正親といえば、私にはミュウツーでありレッドXIIIなわけだが、然し、この本は語り下ろしで、私は非常に興味を抱き、購入に至る。
私は基本的には、タレント本が好きである。そりゃあ吉田豪ほど読むわけではないが、タレント本はその人の人生や秘密などが垣間見えて好きなのである。読みやすいのも好きなところだ。
タレント本は基本的にはインタビューなどをライターが再構成しているわけだが、やはり矢沢永吉の『成りあがり』、そして『アー・ユー・ハッピー?』の2冊は何度読んでも面白い。
『成りあがり』はコピーライターの糸井重里がインタビュアーとして聞いたことを矢沢の独白のように構築しており、本当に読み応えがある。と、いうよりも、永ちゃんの話を本人を前にして聞いているかのようだ。
タレント本は読みやすい。短いセンテンス、わかりやすい言葉、起承転結のハッキリした進行……、これ全て裏方たちの類まれなる文章力、構成力によるものであり、人を楽しませる文章を書くことの難しさを改めてわからせてくれる。
何よりも、タレント、スター、そういう存在、一般の人とは異なる価値観、人生観で生きてきた人たち、彼らの言葉、彼らの時代性を掬い取りさらに発光させる、そのエンターテイメント性。
私はタレント本が好きである。ブックオフをパトロールする時、私は文庫コーナーになど行くことはない。常にタレント本コーナーの前でレアモノを探している。