イヤな小説
『燈台鬼』という作品がある。
これは、小説家の南條範夫の作品で、直木賞を受賞した作品である。
燈台鬼とは、恐ろしい中国のお話を元にしている。
燈台鬼とは、人間燭台のことである。遣唐使として派遣された親父が、燈台鬼に変えられてしまう。そうして、数十年後に、息子が変わり果てた親父と会う、という、もの凄く嫌で、哀しい話である。
都市伝説というものがある。それは、超常現象的なものもあれば、異国への恐怖幻想など、様々である。例えば、『ダルマ女』とかもその類だろう。
映画でも、よくガソリンスタンドで急に同行者が消える話などがあるが、あれも、その類のスピリットが共通しているように思える。
『燈台鬼』の中に、箱櫃児(シアンクエイル)なる恐ろしい話もある。
箱櫃児とは、攫ってきた子供を長方形の箱に入れて、人工的な畸形児を作る中国の恐ろしい話である。纏足の最悪版と言ってもいいかもしれない。
南條範夫は、言わずとしれた『駿河城御前試合』の作者である。『シグルイ』として漫画化された。
『シグルイ』は傑作である。原作では御前試合が十試合行われるが、そのうちの一つ、『無明逆流れ』のエピソードを15巻かけて描き切っている。
ネット界隈では、『HUNTERXHUNTER』のキメラアント編の、王宮への侵入が始まる25巻からのナレーションは、明らかに『シグルイ』の影響だと言われていた。なお、キメラアント編のナレーションは29巻くらいで急になくなる。
『シグルイ』では、隻腕の剣士藤木源之助と、盲目・跛行の剣士伊良子清玄との宿命の闘いが描かれる。
まぁ、今作で一番面白いのは、6巻で描かれる二人の師匠である、岩本虎眼先生と伊良子との闘いであるが。
さて、このようなイカれた都市伝説が出てくる『燈台鬼』は、丸尾末広の『トミノの地獄』に大変影響を与えている。ていうか、まんま出てくる。
まず、かつての見世物小屋の仲間が燈台鬼として登場する。しかも、夫婦の燈台鬼で、お金を払えば二人の交わりも見せちゃうよ!と客引きが言う。
彼らは、見世物小屋のボスを裏切った故に、そのような目に合う。
また、箱櫃児に関しては、普通に主人公の一人、トミノの兄弟のカタンが変なヘルメットをつけられて、魔改造されそうになる。然も、親父にである。
このシーンは、いや、このヘルメットじゃどう考えてもそんな風にはならなくね?と思えて、微笑ましいシーンである。
どこまでが現実かわからないが、この世には、様々な都市伝説は存在している。
そもそもが、古くから伝わる伝承などは、いくつかの事実も取り入れられて、物語として親しまれるようになっている。
現実は、このような恐ろしいものはないのかもしれないが、然し、これらよりも恐ろしいことが、蠢いているのだろう。