書店パトロール38 心の中のマルホランド・ドライブ
いつも通り美術書コーナーを眺めていると、『グレートノベルズ』なる大判の本が置いてあった。世界を変えた小説。
目次を見ると、確かに、誰もが識っている小説ばかりである。然し、全て読んでいる人間は意外といないパターンだ。
やはり、ある一定の作家に入れ込んでしまうと、雑食性が失われる。私にとり、最早現代のエンタメ小説なぞ読むのも時間の無駄であり、どうしても好きな作家に近しいものの方へ流れてしまう。
しかもこの本も高いのだ。3,800円もする!
そんな私の目に、竹久夢二の本がピンクの匂いを持ってフワフワと入り込んでくる。
『竹久夢二の世界』、である。これをパラパラと見ていると、夢二装丁の初版本の書影だったり、雑誌の表紙画だったり、なんとも資料的価値もふんだんにある本。そのうえでレイアウトもキレイだ。
値段は2,400円。思っていたよりは安いな、と感じた。3,000円オーバーすること間違いなし、に思えていたからである。
然し、買うことはしない。今は他に欲しい本があるのだ……。
と、今度は『異能力者の日本美術』なる本が目に入る。
ダークファンタジーの系譜、とある。ダークファンタジー。私にはそれが『ベルセルク』であるが、よく、No.1ダークファンタジーと謳われていた『鋼の錬金術師』はそんなに好きな漫画ではない。鋼の錬金術師って、なんか浮遊しそうになるとまた着陸しそうになって、なんかもやもや中空を彷徨う感じの展開が多く……。
で、この本は美術の本で、ダークファンタジー、という言葉があるが、その言葉が放つ匂いとは異なる……日本的な香気に満ちた絵画群が紹介されている。値段は2,400円。うーん、マンダム。
そんなこんなで、文学コーナーへと趣き、そこで『本の雑誌』を手に取り、パラパラ見ていると、『百年の孤独』がついに今年文庫化!ということで、マジックリアリズム作品の特集が組まれていて、『百年の孤独』を代わりに読む、という同人誌でおなじみの友田とんさんのインタビューも掲載されている。そこで、その冊子を1,500部ほど売ったみたいなことが書かれていたが、うーん、それは最早商業小説家じゃないか……と思ったほどだ。
と、百年の孤独、という麦焼酎があった……。
『百年の孤独』は私は読んだことがない。なんとなく、イメージ的に、『万延元年のフットボール』みたいなものかな、とか思っていたり。これを機に読んでみようかなぁ、なんて考えていると、1冊、美術コレクターの本が目に留まった。
私はこれをパラパラ読んでいて、何やら、恐ろしいものの深淵を視た気がした。そうだ、この御仁はそれはもう、絵画なので、何十万円とかそういう位ではあるが、私だって、何千円、何万円単位で欲しいものを買っている。そして、それには終わりがない。終わりがある、ということがどれほど嬉しいことか。
蒐集している人ならばわかると思うが、人の欲望には際限はない。これを手に入れたからもう満足、とはならず、如何なる宝石も手に入れればその煌めきが喪われて、また新たなる欲しいものが生まれる。それは永久に繰り返される。
人間の欲望の果がないのが、人間への罰そのものかもしれないなぁ、なーんて思っていると、私が以前欲しかった本がヤマト便で届いた旨のメールが入っていて、それを確認、安堵し、そして、また心のなかで新しい獲物を探し始めた。いかんいかん、この気持ちだ、この気持ちが駄目なんだ。
そんな私の目に、神々が映った。
「来訪神」。ナマハゲなどを代表とする、古来からの神々。
悪い子はいねがー!耳朶にナマハゲの声がする。
来訪神の図鑑……。来訪神、といえば、私がコミックスを蒐めている『SANDA』はずばりメイン要素が来訪神である。主人公がサンタクロースであり、仲間にナマハゲとか色々出てくる。
『SANDA』、といえば、昔、週刊少年ジャンプで『SANTA!』なる、明らかに『NARUTO』を意識して描かれたであろう、そういう漫画があった。
いや、『NARUTO』なのか『ONE PIECE』なのかイマイチわからないが、まぁ、そういう漫画である(どういう漫画だ)。
それから、私の大好きな大好きな漫画、『画‐ROW』。私はこの全1巻で完結した漫画が大好きで、未だに手放していない。
話はそんなに面白くないのだが、なんとも世界観、絵、いや、画が素晴らしく、これはまさしく漫画の画廊である。
1話はめちゃくちゃ緻密に描かれているのだが、後半につれて簡素化してしまう。
やはり週刊連載では美しい画を保つことは難しいのだろうか……。
さて、そんなこんなで(どんなこんなだ)、私はもう1冊、気になる本を見つけた。ついに今週から封切られた『DUNE/砂の惑星 part2』の偉大なる先人、デビッド・リンチの本である。
フィルムアート社から出版されている。私が最も信頼を寄せる出版社の一つ。
カラー写真も豊富で、彼の作品を紹介した美しい本だ。
私は『イレイザー・ヘッド』、『エレファント・マン』、『デューン/砂の惑星』、『ブルー・ベルベット』、『ワイルド・アット・ハート』、『マルホランド・ドライブ』、『インランド・エンパイア』は鑑賞しているが、『ストレイト・ストーリー』、『ロスト・ハイウェイ』は観ていない。『ツイン・ピークス』は観ている。
こうして並べて、更に作品のポスターを眺めていると、やはりリンチは藝術家だ、それも特級呪物クラスの。
タイトルの付け方は恐らく最高クラスだろう。これらのタイトルのあまりに蠱惑的なこと。
マルホランド・ドライブとかインランド・エンパイアなんて、実際の道路名と地名なのだが、それを持ってくるセンスである。
然し、押井守は、ティム・バートンは一般人が許容できる奇怪さ、デビッド・クローネンバーグになると変態、そしてリンチはキチ◯イと書いていたが、それもわかる気がする。
然し、そこに惹かれてしまう。端正な映画を撮るヴィルヌーヴには不可能な領域がそこにはある(とはいえ、私の心の1本は『ブレードランナー2049』!)