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文章における祈り

文章において、書き終えた後、最後には祈ることが重要だと教えられた。

それは神頼みではなく、人事を尽くして天命を待つ、ということでもない。
祈る、とは、確信するということである。自分の思想、あるいは自分の美に対しての、確信。

それは傲慢な考えではなく、傲慢を超えた先にあるものである。

『HUNTERXHUNTER』のネテロ会長は、46歳の全盛期の頃、あまりにも強くなり過ぎたため、闘う前からある種諦めていた。その後、彼は山籠りをして、有名な1日1万回、感謝の正拳突きを続けることで、何時しか1万回突き終えても日が暮れていないという事象に気づく。彼のパンチは音速を超えるようになり、そして空いた時間、代わりに祈る時間が増えた。

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祈りとは、心の所作、とはこれもまたネテロ会長の言葉だが、詰まるは極限まで高めた果てに何があるのか、ということ、である。それは一種宇宙的な、人智の及ばない領域であり、個人で出来ることはたかが知れていることに気付く。

ネテロ会長の場合は、自身よりも遥かに格上のキメラアントの王であるメルエムとの出会いがあり、最高の闘いの果てに死ぬことが出来たが、彼の技の裏側には常に祈りがある。

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どこまでも上に行くと、そういう、不可思議な力があることに気付かされて、功利の心が消えて、自分が、浄福なものに守られていることに思い当たる。
(ネテロの場合は最後まで傲慢ではあるが)

『バガボンド』の宮本武蔵もまた、吉岡一門を70余名斬り殺した後、その境地に達する。
『バガボンド』では、一貫して天下無双とはただの言葉、陽炎であると例えていて、功名心のある剣客たちは、その言葉を逆に額面通り世間的な評価だと受け取る。浪人にとり、士官につながる名声だからである。

武蔵の精神的な師匠とも言える柳生石舟斎は、我が剣は天地と一つ、という無刀の教えを武蔵に語る。剣はなくとも良い、という考え。そこから、武蔵は勝つべくして勝つ、闘う前に勝つ、闘う前に勝っているのならば、闘う意味はない、という禅問答のような世界に入っていくが、彼もまた、祈りを口にする。彼の場合は、剣で自分が天と繋がれるような動きが取れたときがそうである。

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後半、武蔵は最後に一度だけ、佐々木小次郎と命を賭けた試合が出来ればそれでいいと考え、彼自身の美しい、ピタッとハマる剣を追求し、闘いよりも、身体の使い方に拘っていく。そして、たどり着いた寒村で、秀作という剣を握ったこともない、然し命の活かし方を誰よりも識っている師を得て、人間性を養っていく。

つまりは、聖なるものとは、地獄からの反転で生まれるということであり、これは『火の鳥』の鳳凰編における我王がそうである。我王も人を殺め、仏像を彫り続けるが、武蔵も仏像を彫り続けている。
我王にはライバルがいて、それは仏師の茜丸だが、茜丸はかつて自分を傷つけた我王への復讐心を持ち、また出世欲のために、彼とやり合う。そして、結句は当座の賭けに勝つことは出来ても、真に仏を掘る才覚は我王に負けた(これは重要なことである。今生で勝とうとするな、それは意味がないから)。

『バガボンド』には、伊藤一刀斎という最強の剣豪が登場するが、彼は石舟斎と相対したときに、「戦えば儂が勝つ」と挑発し、「そうだね。でっかい熊か何かであってもそうだね。」と返される。

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これは、最早二人の価値観、生き方、剣への思いが異なっている断絶の描写であり、たしかに作中で最強なのは恐らくは伊藤一刀斎なのだろう。彼は殺人剣の使い手であり、戦えば石舟斎は斬られるかもしれない。

然し、そうして最強だと言われても、その先どうなるのか、また新しい敵が現れて、俺が最強だと言い合って、殺し合う。そのような螺旋である。そして、ここでは熊が例に出るが、人間をたちまちに滅ぼす災厄に遭えば、いくら強かろうが無意味である。

私は人物としては一刀斎の方が石舟斎よりも好きなのではあるが、然し、武蔵の言うように、大きなもの、というのは石舟斎の方なのだろう。

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文章においても同様だ。文章は、初めはただ書くことが楽しい。それが何時しか、人目を気にするようになり、今度は功名心に囚われる。この功名心が曲者で、書き手もいつしか認められることに重きをおいて、思想を捻じ曲げて、作品の声を聞かなくなる。

これを突破することは、なかなかに難しいことである。然し、褒められるためのわが子ではないだろう。祈るとは、愛するということであり、感謝するということである。なぜ祈るのか、それは祈りは確信であり、嘘ではできない行為だからだ。読み手の慰安で終わってしまう作品は、商売か自己顕示に終始しているからであって、祈られた作品には嘘がないから、実を結ぶこともあるだろう。
少なくとも、書き手本人の中に小さくとも花開いて、それで充分、文学のはずである。

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