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映画 『本心』は良かったか?まぁ、本心から言えば、良い映画だったよ。

平野啓一郎原作の映画、『本心』を観る。以下、ネタバレも書く。


TOHOシネマズ二条のレイトショーにて。お客さんは私を入れて5人だった。誇張ではなく。

そして、最近はTジョイ京都に通っていたせいで、まさかBiVi二条が是映画館とローソン以外改装工事で閉店中という衝撃の事実を識り、さらに、11/22〜12/5は映画館すら休館するという。なんということだ。まぁ、リニューアル、であるから、別にいいんだけど。BiVi二条は映画館があるけどのんびり時間を潰す所がないからカフェ系を充実させて欲しいね。

で、『本心』であるが、監督は石井裕也、主演は池松壮亮、共演に田中裕子、三吉彩花、水上恒司、綾野剛、妻夫木聡、仲野太賀、田中泯、という超豪華キャストである。

私は、石井裕也監督はそんなに好きではなく、『川の底からこんにちは』の頃から観ているが、まぁ、池松壮亮も、ブッキーも、仲野太賀も、石井映画の常連なので、いつもの感じだ。

で、私は、原作は読んでいない。なので、原作を読んでから映画も観るほうが、まぁ、正しい見方だと思うが、然し、けれども、私は、今作に関しては、そこまで時間を割くことは出来ない。

なので、映画オンリーの感想だが、この映画は良かったなぁ。まぁ、ツッコミどころが多い映画なのだが、観ていて心地いいんだよね。
映像はすごく品がよくて、落ち着いていたね。近未来SFの匂いを感じたなぁ。まぁ冒頭の30分は。だんだん近所の話かよ、って感じになっていくんだけど。

まず、私は、この映画は、2040年代が舞台、と聞いていたが、それは原作の話であり、映画は2025年からスタートする。で、そこから数年の話だ。

どうやら、この世界の日本では、自由死なる、自殺の合法というか、自殺することで税が軽減されたりするなど、そういう制度が成立していて、主人公の母親が自由死を選んで自殺を図ったような冒頭から始まる。
で、主人公の朔也さくやは、豪雨で濁流と化した川に飛び込む母を助けるために自らも飛び込み、結果、母は亡くなり、自分は昏睡状態になってしまう。
そして1年経ち、母の死に改めて戸惑いを受けつつも、機械化の流れで昏睡に落ちる前にしていた溶接工の職場は閉鎖され、彼が寝ている間に浸透し始めていたリアルアバターなる仕事を始めることになる。
合わせて、友人の岸谷の紹介で、VF、バーチャルフィギュアと呼ばれる、個人の情報をaiに学習させて、本物のような電脳人間を作る技術を識り、それで母のVFを作ろうとする。それは、母が死ぬ前に彼に伝えようとしていた大切な話、を聞き出すためである。

と、いうような話で、まぁ、予告編、を観た時は、母親の『本心』、人間の多面性、深層の闇、などへ迫っていく近未来サスペンス、かと思いきや、母親の話は、中盤から何処かへ飛び去り、オチとして出てくる感じで、私は腰を抜かした。
「最近、全然相手出来なくてごめんね。」と、最後の会話の前に朔也が言うように、放置プレイを喰らう母のヴァーチャルフィギュア。
予告編を観ていなければ、恐らくそのように思うこともなかったのだろうが、而も、最後に語られる母親の「本心」も、は?と言いたくなるような単純なもので、前半30分くらいは、なかなか見せてくれるぜ、と思ったのに、後半散漫になっていく。

何せ、本心、とは、誰の本心か、これは予告編では、母親の本心であるように思わせて、本心は朔也のことでもあるし、或いは、朔也と同居することになる、ヒロインの三好の本心のことでもある。なので、どちらかと言うと、この近未来、つーか、来年とか再来年の話だから別に近未来じゃねーし!、いや、近未来だけど、近すぎじゃね?、まぁ、この近未来において苦悩して生きる純粋すぎる、正義感の強すぎる青年の話であって、どちらかというと、彼がしている仕事である、リアルアバターの方に物語の力点が置かれている。

リアルアバターは、まぁ、Uber Eatsみたいな感じの鞄を背負い、クライアントの行きたい場所へ代理で行ったり、行動代理業みたいな仕事である。で、朔也君はこの仕事を始めて1年以上が経ち、レビューは3.6。これが3.5を切ると、即契約解除のメールが届くという鬼仕様であり、クライアントが無理難題を吹っかけて、しかも簡単に0.1とか酷い点数をつけるため、最早成立不可能な設定で、まぁ、すごく気になるわけだが、そこら辺は、物語を駆動させるためには仕方なし、然し、すごい酷いクライアントがいて、御見舞代行で、ゼリーを買うか、何を買うか、わざわざその場所まで行かせて1時間も走らせて(暑い中スーツを来ている朔也君)、更にはメロンを買いに行かせて、そこで包んでくれている店員さんに向かって、「買わない。包み方が下手だから。」と言わせる鬼司令。そしてレビューは0.1みたいな、こんな仕事成立するわけねーだろ!

然し、朔也君は真面目であり(と、いうか、少しグレーな所があるのかもしれない。その辺りは定かではない)、その他のクライアントに、炎天下に一生懸命走ってチョコレートケーキを届けた後、0.1のレビューをつけられて、その理由が汗臭い、というもので、家に帰りシャワーでゴシゴシ必死に洗うその姿、私は悲しくなったね。
そういえば、最近、その件で炎上してたアナウンサーがいたが、それを思い出した。こういう哀しい事案が頻発する、そんなディストピア、まぁ、リアルアバター、とか、バーチャルフィギュア、とか言ってるけれども、普通に現代の話であり、この現実というディストピアを生きる若者の話である。

で、朔也君、なんとはなしに聞いていたVF母の話の中で、自分の出生にまつわる衝撃の事実をさらっと言われて愕然とする。えー!馴れ初め嘘やん……、てかそれどころじゃない……、みたいな。
朔也くんは過去に正義感から故、暴力事件を起こしているのだが、その理由が父親にある可能性も少し思ったり。

まぁ、そんな感じで、ふんだりけったりの朔也君、同居する三好彩花(三吉彩花)と、なんとなーくいいムードになっていくけれども、それもどうしてそうなるねん!的な展開で、哀しいことに……。
まぁ、三吉彩花さん、いいですね、素晴らしい存在感でしたね。今回、役者さんはやっぱり皆さんいいですよ。
岸谷を演じる水上恒司さんも、エボシ御前まんまの田中裕子さんも、ブッキーもね、いつものスマイルで怪しさ満点だし、「え。たくみくん、どないしたん、こんなところで。」と思わず言ってしまうほどに、いつもの綾野剛で、役者全員良い。

でもやっぱりいつもの、あの、独特の喋り口調、真似したくなることNo.1の池松壮亮さんの演技、上手いのか下手なのか、もうわかんねーよって上手い人なんだろうけど、もう客の眼と心を鷲掴み。なんかね、全員が、独特のイントネーションを持って話していてね、私はもうね、この映画が面白いのか、面白くないのか、自分の本心を測りかねたね。

で、まぁ、本心、というのは、バーチャルフィギュア、という、AIであったり、機械とか、そういうものに心があるのか、という、そういう意味もあるのでしょうがね、やはりね、そういう、情報の蓄積物(つか、バーチャルフィギュア生成の過程も適当すぎるだろ、あんな情報量じゃ精度低そうだし、300万で作れるとは思えねー)に心が宿るか、云々、よりも、人間は、自分の心すらもわからない、そして、艱難辛苦に塗れる世俗に置いて、辛すぎる閉塞感しかない人生を送る青年へ母親の本心、それが愛、っていうのは、まぁ、彼の出自を考えても、なんとも優しいものだと思ったね。

最後に、クレジットで、バーン!と、原作・平野啓一郎、と出てくる、これに驚いた。始め、平野啓一郎が監督かと思ったよ。

まぁでも、今年観た映画の中では好きだなー。




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