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a kite


『シン・エヴァンゲリオン』を観たが、種の割れた手品のようで、確かに力作ではあるが、その芸術的な表現を除けば物語は表層を浚っただけで、個人的にはやはりあの、二十世紀のエヴァンゲリオンのままでよかったのにと思えた。結局、私はエヴァンゲリオンという作品の持つ時代の匂いが好きなのかもしれず、そういう意味で新劇場版は、楽しいアニメに終始していた。

私が九十年代のアニメーションで一番好きなのは、OVAの『a kite』である。
これはエロアニメで、ブラウンバニーという会社が制作した、二本のシリーズものである(この会社はもうない)。とはいえ、1話20分ほどなので、実質は40分程度。その中に、一つの世界が結実している。

物語はマンションのエレベーターから始まる。女子高生といちゃいちゃしているお笑い芸人に対して、乗り合わせたマダムがポツリと小言を言う。そうすると、お笑い芸人は激高し、マダムに暴行するが、それを停めるわけでもなく、平坦な顔のまま、女子高生は鞄から銃を抜き取ると、彼に向けてそれを撃つ。ギョーン、ギョーン。GANTZのYガンのモデルだろうか、タイムラグがあり、お笑い芸人の頭はスイカのように割れて、エレベーターは血の海になる。女子高生はそのままエレベーターの天井裏から脱出すると、夜の都会を見つめる。

この辺りは、音楽も相まって、抜群にいい。てゆーか、この後もずっといいのである。
女子高生は砂羽(さわ)という名前で、若き殺し屋である。彼女は検死官でもある赤井という刑事に飼われていて、肉体関係にある。然し、赤井は砂羽の両親を殺した敵だった。
依頼をこなす砂羽の前に、音部利(おぶり)という青年が現れる。彼も又、殺しを生業とした男だった、というのが大まかなあらすじ。

キャラクターデザインと監督を務めた梅津泰臣は本当に可愛らしい女の子のを描くけれど、この世界は幻想性、SF性、そしてエロスが濃密に絡み合って、傑作になっている(然し、セックスシーンは妙な編集で、声と絵があっていない笑)。メイキング本であるコンプリートガイドの監督のインタビューを読むと、エロを入れればしたいことができるチャンスだったとあった。それは作品を観ていればわかるように、描きたいのは美しい少女の復讐譚である。然し、この作品に関してはエロスも上手く作用していて、物語世界を深化させている。

凄まじいバイオレンスが続く作品だが、この作品では心でつながる男女にこそ、身体のつながりはない。然し、魂を同じくとする者の、優しい寄り添いがある。

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