ガンニバルとハンニバル
明日、2月28日に『ガンニバル』最終13巻が発売される。
(基本、ネタバレもあり)
『ガンニバル』は漫画ゴラクで連載されていたサスペンス・ホラー漫画で、テーマはずばり『食人』である。
カニバリズム、という人肉食の風習に関しては、様々な世界で語られている。
カニバリズムといえば、映画ならば『食人族』が有名で、これを現代にリブート(リメイク)したのが『グリーン・インフェルノ』だが、どちらも未開の人々に対するレイシズムというか偏見がすごいが、まぁそこは映画なので、しょうがない(しょうがなくはない)。
また、有名な人食い人間といえばキャラクターならば、ハンニバル・レクター博士が有名だろう。アンソニー・ホプキンスは素でも怖い顔をしているから、まさに名キャスティングだと言えるだろう。
小説ならば『ひかりごけ』があり、これはひかりごけ事件を元にしているが、こちらはカニバリズムとは異なる飢餓故の食人であり、また同様の状態を書いている『野火』などもある。そういえば、武富健治の『鈴木先生』において、クラスの演劇で『ひかりごけ』をすることになるのだが、とんでもない演劇である。鈴木先生は狂人なので、すぐにタヴーに踏み込んでしまうのが玉に瑕である。
話が逸れてしまったが、『ガンニバル』も食人をテーマにしている。
供花村と呼ばれる小さな集落に、新しい駐在の阿川大吾が妻と娘と共にやってくる。村の人々は彼らを歓迎してくれるのだが、ある日、後藤銀という老婆が熊に襲われ死んでしまう。後藤銀は村の権力者の後藤家の当主であり、彼女の孫である後藤恵介は、祖母を殺した熊を殺すために猟銃を担いで山狩りに出る。然し、銀の死体を見た阿川は、熊にやられたとは思えない歯型を死体の腕に見つけたり、後藤家の連中にきな臭いものを感じ始める。その上、前任の狩野巡査が死んだのは、後藤家に殺されたのではないかと、という噂までが彼の耳に入る。
狩野は、死ぬ前に狂ったように後藤家を調べ続けて、そして、こう言っていた。
後藤家の連中は人を食っている。
今作は、1巻〜3巻までは村八分ホラー・サスペンスである。
この村、何か怪しい……。と阿川巡査が供花村を調べまくる。その先には常に後藤恵介がおり、彼は事あるごとに阿川や家族に対して恫喝めいた事を仄めかす。更に、巨大な一族の後藤家とは距離を置くように見える村人達も、親切心めいた出迎えから、段々と共同体のルールを共用し、阿川達を精神的に追い詰めていく。
阿川が狂っているのか、村がおかしいのか、然し、何人かの協力者、そのうちの一人、彼らに顔を食われた青年の登場から、物語は段々加速を始める。
今作には主人公が二人いる。
一人は阿川。もう一人は後藤恵介である。
阿川は、娘を溺愛しているが、駐在になる前は刑事だった。暴力刑事で、行き過ぎた暴力で犯罪者をさばく。彼は、ある事件において、犯人を射殺する。彼は、殺人を犯したことのある男であり、ある意味、登場人物の中で一番狂気を孕んでいる。それは、正義の為、子供の為ならば、全員殺しても構わないという、ウルトラに武闘派のところである。
彼の、この武闘派な面が、村が隠蔽していた歴史を明るみに出るように作用する。
もう一人の後藤恵介は、初登場時はモブかと思うほどの地味さである(『ハンターハンター』の初登場キャラもモブだが、だんだんと味のある顔になるよね)。然し、中盤から、彼がダークヒーローであり、もう一人の主人公、呪縛の中でもがき続ける苦悩の男であることが判明し、作中で一番格好いい存在であることが判明する。
今作は、この二人の男が、それぞれの立場で、事件の解明、そして、その奥にある子供の生命を救うという、人間としての尊厳の話に変わっていく。
彼らはどちらも手が既に汚れてしまっていて、愛する人を、子供を抱きしめる資格はない。然し、愛は止まらない。愛のためだけに、地獄の中をもがき続けるのである。
後藤恵介の弟である洋介もいい。彼は心優しい男であり、4巻でとある男の子の身体を風呂桶で洗ってやるシーンの美しさは作中一番だろう。
この漫画を読んでいて思ったのは、読んだときの感想で近しいのは、『ザ・ワールド・イズ・マイン』である。今作は始まりから終わりまでが計算されて描かれており、映画的なシーンの連続であり、筋運びに胡乱がない。
少し無理がある設定なども多いが、絵の勢い、話の面白さでぐいぐい読ませる。
『スラムダンク』の山王戦を思い出してほしい。あれは、試合中に作画が凄まじい勢いでレベルアップしていった。今作では、巻が進むにつれて、作画が荒くなっていくという意見があるが、とんでもない。格段に上手く、美しく、凄まじい臨場感を醸し出すように、絵と演出の睦み合いが上昇していく。
今作は、ディズニープラス独占配信でドラマ化が決定している。主演は柳楽優弥。柳楽優弥は、暴力的な演技も得意としているので、これは中々はまり役になるのではないか。
また、監督は現在上映中の『さがす』の片山慎三監督。
相当に、ウルトラバイオレントな作品になりそうな予感がヒシヒシとするが、とにかく漫画版も人が死にまくる。
食人シーンはそんなにない。今作は、食人というよりも、食人の儀式が生まれるまでの過程をミステリーの軸として置いている。
それは、ある種私のトラウマ的映画の『湯殿山麓呪い村』のとある最高に不快な回想シーンに通じるものがあるが、ああいう、おどろおどろしい村の一族の因習的な話が好きな人には堪らないだろう。
とにかく13巻である。どのように物語が終わるかはわからないが、今作は中々にハードかつ、面白い作品だ。
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