歪なアリス
『アリス・イン・ワンダーランド』は2010年のゴールデンウィークに公開された映画で、当時110億円くらい稼いでいた。
ちょうど、その約半年くらい前、2009年に始まる『アバター』のウルトラヒット、そこからの空前の3D映画ブーム、そして、ジョニデがまだ無双していた頃、という、色々な要因が上手く機能して稼ぎ出した数字である。
ティム・バートンとジョニー・デップ、押井守の言うところの、【世間一般がギリギリ許容できる異形性】のタッグの新作で(デビッド・リンチやクローネンバーグまで行くと、一般観客には許容されないのだと言う、一部、例外はあるが)、いかれ帽子屋、つまりはマッドハッターをジョニデが演じていた。
アリス役はミア・ワシコウスカで、大変に美しい女優さんである。
これは、ディズニーのアニメーションのアリスのイメージも多分にあるのかもしれない。
他にも、アリス映画の有名所は、チェコの映画作家のヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』があったりして、これは好事家が好きだろうし、テリー・ギリアムは『ローズ・イン・タイドランド』で、ギリアムなりのアリスを低予算映画で作っている。
何れにせよ、アリスというものは美少女とキチ○イおっさんや怪物たちのお話である。
これらの物語、モチーフは、クリエイターの心をとにかく掻き乱し、刺激するのだという。気持ちの悪い話である。
映画で言うのならば、ザック・スナイダーの『エンジェル・ウォーズ』もアリスの変化系であり、というか、アリスの映画ばかりである。汎ゆる物語に、アリスが潜んでいる。
そう、ルイス・キャロルの書いたアリスは世界中で愛されている。
少女、というモチーフは、少年、とは違い、また危険な匂いを孕んでいる。
汎ゆる漫画に、美少女が登場するが、沢渡朔氏の写真集、『少女アリス』など、万人がイメージするアリス像そのままではないだろうか。
初版は1973年に発売された本なので、今から49年前、半世紀前の写真集だが、現代では児童ポルノとして抵触する。
何度も復刊されているようで(いいのか?)、女性ファンも多いと聞くが、単純に作中に描かれているという叙情的な世界が好きな人もいるだろうし、そういう趣味の女性もいるのだろう。
それは男だろうが変わりない。同性愛の本などいくらでも巷には転がっているからだ。
こういう、ポルノか、芸術か、という論争は常に芸術界隈では論争になるが、アダルトビデオだって芸術になり得るし、芸術という名の猥褻物もあるので、難しい問題だ。
そもそも、全裸、というのは人間は誰でも好きであり、それが鍛え上げられた、磨き上げられたものならば尚の事良し!とのこ御仁は多いだろう。
ただ、嫌がっている人の裸を見世物にし、辱めることは許されることではない。
然し、1970年代とか、それより前は、そのようなことが多くあったのだろう。
イヤな時代である。今だって、イヤな時代だが。
ネットに転がるエロバナーの全てを駆逐してほしいのだが、あれはどうにかならないのだろうか。正常な世界とは思えないし、皆感覚が完全に麻痺しているのだろう。
私の好きな、津原泰水氏の『バレエ・メカニック』も、アリス的蠱惑に満ちた本だった。
物語は、天才造形作家が巡る、昏睡状態に陥った娘と連結した東京の視る夢である。彼女が明らかにアリス的であり、彼女の代わりに父が巡るのである。モーツァルトが流れる幻想の東京。
この傑作小説は同氏の『ペニス』同様に、様々な技を打ち込んだ超絶技巧の小説であり、私は今でも人生のマイ・フェイバリット小説を5冊選べと言われたら、これを入れるだろう。
津原泰水氏と仲の良かった画家の金子國義氏は、イタリアのオリベッティ社から出版された『アリス』本の装丁を担当していて、この本もまた稀覯本の類で、大変にレアである。
この本にまつわることは、確か金子國義の自伝の『美貌帖』でも触れていたはず……。確か。
この本にまつわる非常に詳しいブログがあったので、転載させて頂く。
然し、ぶっちゃけると私は『不思議の国のアリス』という作品には何の共感も持てないし、取り立てて好きではない。
それは、アリスという作品が美しさと同様に、いやそれ以上に、その創り手たちの欲望そのものを放出し、それが腐臭のように感じられてならないからである。
元々のアリスは、何も悪くないのだが……。最近読んだ、『ブルーピリオド』新刊の13巻での八虎のインスタレーション作品、その【視線】そのものが、作品から感じられる。少し意味は異なるけれども、作品というよりも、創り手が逆に顕現してしまう、そのような歪さ、それを、アリスという作品は持っているように思えるのである。
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