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狂四郎2049
『狂四郎2030』という漫画がある。
『ジャングルの王者ターちゃん』などの代表作を持つ、徳弘正也の青年向け漫画で、スーパージャンプで1997年〜2004年に連載された。
今作は、ディストピア漫画である。
この作品は大雑把に言うと、一部の特権階級がセックスを独占した世界を舞台にした、命がけのラブ・ストーリーである。
と、いうのも、この世界では遺伝子の優劣を極めて重要視する政党が国家を支配していて、男女は隔離されている。そして、生まれついての遺伝子で、人は組分けされる。
「グリフィンドール!」ってなもんであるが、私はスリザリンをこそ愛する者である……(ハリポタはイギリスだからか、階級に対しての根強いものがあるのだろうか。これ+、クィディッチの意味不明な逆転ルールだけは嫌いである)。
セックスを剥奪された人々には、慰安としてバーチャルセックスが用意されている。いや、それしかないのだが。
ここらへんの描写はギャグのように思えるが、恐ろしい世界である。
この、バーチャルのセックスマシーンで知り合った主人公狂四郎と、ヒロインの志乃とのラブ・ストーリーが今作の主軸である。
狂四郎は恋に落ちて、生身の志乃を抱きしめるためだけに、彼女の元へ、狂った世界を旅するのである。
この19年後の世界、『ブレードランナー2049』の世界では、人造人間レプリカントたちが性の道具として人間に搾取されており、主人公Kは、誰からも愛されることもなく、AIの恋人joiを愛する。ジョイは、誰にでも平等に愛を注ぐが、セックスはそこには存在しない。
Kは、同胞を殺すブレードランナーとしての仕事を全うした後、毎回精神に異常がないかを検査される。そこでは、真白な部屋で、無機的な問いが繰り返される。
接続の夢を見るか?
誰かと触れ合いたいか?
我が子をこの手で抱きたいか?
レプリカントは、子供を産むことはできない。作ることができない。
Kは、プログラムであるジョイに恋していて、彼女とつながるために、娼婦の身体と同期したホログラムを抱くわけだが、この娼婦もまた、レプリカントである。この営みには命の種がない。
そして、ジョイと同期したマリエットは、ジョイのことを空っぽだと言う。
バーチャルセックスに興じる二人も同様である。空っぽではないが、嘘が紛れている。
狂四郎も、志乃も、互いに他人には見せたくない自分を持っている。
狂四郎は戦士として、殺人マシーンとしての自分、志乃は、様々な権力者に汚されている自分。
然し、二人は惹かれ合い、魂が呼び合うのである。互いの呼びかいの声が作品からは常に聞こえている。
人からセックスを剥奪できるのか?
仮に、剥奪したとしても、恋心だけは、人は奪うことは出来ない。
恋心は、祈りのようなものだから。
あと9年で、狂死郎の時代がやってくる。