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星になった少年
布引ハーブ園から車で10分、芦屋へと向かい、『月光百貨店』を覗いた。
稲垣足穂オマージュ展が開催されていたのである。
閑静な住宅街の中、線路沿いにその百貨店はある。
蔦だらけの青い壁面、この閑静さ、まるで『悪魔のいけにえ』……。夏だし、真っ青な空だし…というのは冗談で、店内はひんやりと冷房が効いていて、薄暗い。夜空の中に落ちたかのように、溢れる紫、青、そして散らばる金色のキラメキ。静かな音楽が流れている。
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建石修志のコラージュである『少年愛の美学を含む靴の呼吸について』を見たかったのだ。20万円もするが、有名な作家の作品であるからそれもまたしょうがないのだろう。ある種、ジョセフ・コーネルの作品のような格調高さがあるのだ。
お目当ての作品ははたして入口にあって、厳かな、然しこじんまりと、ちょこんと机の上に置かれていた。靴の呼吸である。
思ったよりも何倍も可愛らしいそれを横目に、他の作品の数々も見る。様々な作家の描く夜空がある。
作品を眺めたあと、ドアを開けて出ると、電車が通る音がして、現実に引き戻される。この店内には、たしかに夜空の魔術がかけられているようである。
入口に立てかけられていたポスターが目に留まる。『星になった少年』。美しい少年が涙を流している。そして、POPな星。なんとも70年代、いや80年代?そのようなテイストの愛らしいポスターである。識らない映画だ。識らない映画というのは、この世界には100万本くらいある。たかたが数千観た程度、まだ井の中の蛙大海を知らずである。
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イタリア映画らしい。同名の柳楽優弥主演の映画は映画館で観たよ。東宝シネマズ二条がオープンしたばかりの頃で、大学生だった。あの映画も好きだけどね。
今作はとても悲しい映画のようだ。何故だろうか、私はこの映画を観ていないのに、とても切ない思いに捕らわれている。
不思議な感覚、これは、このポスターのレイアウト、それが郷愁を誘うものだからかもしれない。私は、まだ生まれてもいない時代に、ずっと懐かしいという感情を抱き続けている。
そして、店から離れると、然し、まだどこか夢うつつである。これは芦屋という街が持つ非現実感のせいもあるからかもしれない。
行けない方はオンラインショップもあるべな。
次回は8月22日に蚤の市を開催するとHPにはある。興味のある方は、魔法をかけられに行ってみてはいかがか?