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神々の深き欲望=人類学入門 今村昌平は好みの女優がわかりやすい

『エロ事師たちより 人類学入門 』は、1966年の映画、原作は野坂昭如、監督は今村昌平、主演は小沢昭一、である。

で、今作、原作は野坂、だけれども、まぁ、大筋と、要素、キャラクターこそは原作から拝借、だけれども、中盤以降、話が少し変わってくる、し、いや、大筋は一緒なのだが、この映画には、原作にはほぼない、主人公のエロ事師であるスブやんの回想、というか、トラウマ、と、後家の恋人春との関係が、大幅に拡張されている。

この春、という後家さん、娘さんに恵子、という娘がいるのだが、これに加えて、兄も登場する、するが、原作にはいない、そして、恵子、恵子は原作ではキーパーソンで、ファム・ファタル的だが、映画版ではその要素が大幅にスポイルされており、代わりに、春が原作の20倍くらい濃く描かれている。
原作では幸薄い後家さん、途中で亡くなりフェードアウトするのだが、映画版ではほぼ主役に近い。これは翻案のレベルなのだろうかと思う。
演じるのは坂本スミ子だ、坂本スミ子、は、今村昌平の映画では、『楢山節考』の主演だ。あの、自分の歯全部抜く、で、お馴染みの、デ・ニーロアプローチ、よりも、ニコケイアプローチ、的な、狂気の演技プランの。

で、この坂本スミ子が大暴れする。
原作ではどちらかというと控えめな感じの女性だが、映画版ではパワフルで性欲ムンムン、その上最終的には狂気に陥る、ほとんどホラーである。
反対に、主人公のスブやんの小沢昭一はまぁいいのだが、特に関西弁が素晴らしいのだが、然し、スブやんのスブは酢豚のスブであり、太っているのが重要なので、その点はイマイチ忠実ではない。

まぁ、何よりも、映画版はスブやんの仕事仲間の登場が少なく、小説版は、彼らこそが主役で、それがお春に取って代わられた感じである。
小説版は男性の話、映画版は女性の話になっている。しかも、エロ事をする女性ではない、エロ事を生業とする者の周囲の人が主役になっている。

はっきり、小説版はウルトラに傑作、であって、映画版はそれに比べると、まぁ、間延びしているし、ラストは大幅に変更されているし、それが、ある種のメタ的な面白さになっているところもあるのだが、然し、けれども、やはり、今村昌平映画の匂いが濃厚に過ぎて、作家性のある監督だと、どのような原作ですらこう、タールみたいな絵の具で塗りつぶして、それでいて、自身の匂いをプンプンと放つ、下手すると、原作すら閉じ込めてしまうのだなぁ、と感じる、そのようなことを思う出来。

映画では、ブルーフィルムの撮影シーンも少ないし、殿山泰司演じる出演男優とその娘、の父娘での出演は、原作では悲哀がある、かつ然し何処までが真実か怪しい二人、的な、良いエピソードなのだが、今作ではそれも少しさらっと触るだけ。
乱交シーンなども、時代もあるだろうが、うーん、これもさらりと、逆に、ダッチワイフのシーンを入念に撮る、入念に撮る。寧ろ、このラブドールのシーンをこそ、重点に置く、これは生身の女性である坂本スミ子やその他の人物のよく喋る生身というものと、冷たく静かな人形というものとの対比なのだろうか。

私は、今村昌平は『神々の深き欲望』が一番好きなのだけれども、こう、肉体、プンプンするような性、そういう脂身みたいな、あの感じ、意外に、野坂はスタイリッシュ、なので、食い合わせが悪い気もする。

で、今作は、先述した通り、ある種、メタ的なブルーフィルム映画となっているのだが、そういう大枠でのブルーフィルムはあれども、2時間を超える長尺の中でも、そこにはそれほ注力しない、なので、これはこれで、今村昌平映画としてはありだが、青映画の映画としてはどうなのだろうか……。
今村昌平って、『豚と軍艦』とか、『赤い殺意』とか、『にっぽん昆虫記』とか、モノクロ時代、まぁ、カラー時代もだけど、こう、熱量濃厚、肉感濃厚、だけども、その分、詰め込み詰め込みで、噎せそうになる。
そして、女優の好みが一貫している。

青映画について、私はまだ観られていないので、是非、観てみたい、そんな映画、ピンク映画の巨匠、渡辺護の『(秘)湯の町 夜のひとで』なる、ブルーフィルムを撮るエロ事師たちを描いた作品がある。
うーん、観たい!昔、DVDが出たのだが、これはなかなか高価、高嶺の花、BOXなどは数万円するからね。

今作品を紹介しているブログがあったので、ここに紹介させて頂く。

結句、映画、というのは、モノクロ映画もあれば、ピンク映画も、青映画も、山のようにあって、全ての作品を観ることなどは到底出来ない。
人生は70万時間しかない。80年生きて。70万時間、70万時間、全てフルで使ったら、350,000本の作品が観られるが、それは物理的には不可能だ。
どんなに観ている人間でも10万本が限界だろう。
而も、それだけ観ても、本当に観るべき映画、重要な映画を見落としている。
数を観ればいいわけではない、重要なのは、何を観たか、なのである。

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