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あなたは星、あなたは星座

昔、『美味しんぼ』のアニメを観ていたとき、エンディングで流れる『LINE』という曲がとても好きだった。CDも持っている。

エンディング、オープニングともに2曲あり、前者は忘れられがちだが、どちらも名曲であり、『TWO OF US』は最初のエンディング曲だが、絶品である。それに続く2曲めの『LINE』に関しては、片思いの曲である。


昔は、アニメーションの曲というのは、アニメ作品の内容に寄り添ったものだと思っていた。そのため、『LINE』に関しては、片思いをしている女性の心情の歌であるから、原作漫画など読んだこともない子供の私には、山岡士郎と栗田ゆう子の二人は結ばれないのではないかと幼心に心配になっていたものだ。

結果、二人は47巻で結婚し、今では三児の親であり、親父とも和解している。二人は、長い年月を重ねて結ばれたわけだが、だんだんとそれは日常に堕ちていって、今では円満だが美しさは微塵もない。そして、雄山は完全に人格者になっており、夫と義父、どちらも尻に敷く女性の力強さ……。

片思いが美しいのは、それが壊れやすいこと、最後には壊れることが運命づけられているからであり、それは、咲きかけの花の蕾であり、沈みかけの夕陽である。
それは、だんだんと延びていく円錐の頂点に置かれたものであり、尖ったものは裸のまま、手を伸ばし続ける。尖ったものは美しい。然しそれは脆く、簡単に砕けてしまう。純粋であれば純粋であるほど、尖れば尖るほどに脆くなり、何かに触れるだけで取り返しがつかなくなる。

尖っていく思いは流星になって、最後には燃え尽きてしまう。
流星である。片思いは流星なのである。

流星は死んでいく星であり、本人(本星?)は燃え尽きていくわけだからたまったものではないが、然し、死んだ星が流れ落ちていくのを美しいと感じるのが人間の不思議と残酷さである。

例えば、元気な虫よりも踏み砕かれて羽根が粉々になってしまった蝶や蝉こそに、同情と共に静寂や美しさを感じてしまうのが人間である。
流れ星に願をかけるのは、消えていくものへの祈りに近いのかもしれない。
一等美しいのは叶わない片思いであり、叶ってしまう夢も、恋も、それは美しさを孕まない。
何故ならば、それは現実になってしまうからであって、そこには幻想が踊る余地がまるでないからである。

然し、同時に、シューティングスターとは、捕まえようとしても捕らえられない、恋をする相手そのものでもあるのかもしれない。
星は、遠く彼方で、遥か過去の光を瞬かせている。今でも、私達は、はるか過去に愛した人への思いが胸に煌めいていることに、誰もが覚えがあるだろう。それは、いつでも目を瞑れば視える流星群である。

恋は、夜空である。きらきらと、お空に瞬いている。
それは、都会の、摩天楼に灯るきらめきとも似ている。
私が、『美味しんぼ』のバブリーな都会の空に流星を幻視したのも、結局は片思いが見せる幻だろう。私が恋した人は、皆星座である。

まるで流星燃え上がる炎、恋と流れ夜空駆けるよ

米光美保『恋は流星』

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