少年の日の思い出
私が小説単体で一番好きな作品はヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』である。
中学の教科書に掲載されているから、読んだ方がものすごく多い作品だと思う。
私は1998年に中学1年生だったから、その時に出会った。
当時は、好きなものはゲームと漫画ばかりで、本など読まなかったが、この作品だけは好きで、授業中にも何度も読んでいた。
特に、挿絵が幻想的で美しくて、心を奪われた。
冒頭、私を訪ねた友人に蝶の標本を見せる描写からして美しい。そこを導入として、物語は友人の語りに代わり、蝶や蛾の採集における、穢れた思い出が述べられる。
この小説はとても短いが、小学生中学生期の思春の日々における、言いようのない罪の意識、過ちが丁寧に書かれていて、誰しもが共有できる。一言で言えば、郷愁に満ちていて、私は中学生なのに、中学生だからか、主人公の『僕』の思いが痛いほどに伝わってきた。私にも、彼とは別に、薄暗い思い出というのはあるし、それを思う時に、この作品の感情を思い出す。
原題は『クジャクヤママユ』といって、蛾の名前だが、この作品は本国ドイツよりも日本で有名だと言う。
私は蛾が苦手だが、蝶々よりもよほど神聖だとは思う。ベルセルクのシレーヌも蛾だけど、あの使徒が一番いいよなぁ…。
文学において私は一番は切なさ、郷愁が重要なファクターだと思うので、この作品は私にもう一つの少年時代を思い出させるようで、大切な作品である。
特に、物語最後、
『だが、その前にぼくは、そっと食堂に行って、大きなとび色の厚紙の箱を取ってき、それを寝台の上に載せ、やみの中で開いた。そしてチョウチョを一つ一つ取り出し、指でこなごなに押しつぶしてしまった。』
という文章は今でも心に残っている。
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