竜二 ※澁澤龍彦ではない
縮緬三尺ぱらりと散って、花の都は大東京です。
金波銀波のネオンの下で、男ばかりがヤクザではありません。
女ばかりが花でもありません。
とは、金子正次の映画、『竜二』の中に出てくる文言であるが、『竜二』は、自主ヤクザ映画であり、金子正次畢生の遺作である。
『竜二』は、超簡単に言うと、ヤクザから足を洗おうとしたけど、やっぱりヤクザに戻るぜ!って映画である。
主人公の竜二は妻子もいるし、奥方もヤクザなんて辞めてよ、あんたぁって感じ、カタギの世界で働くが、舐めた口聞く仕事の先輩にはお灸を据えたるぜ!って感じ。最後は奥さんが商店街で肉の特売品を買おうと並んでいたら、肩で風切る旦那を見つけて苦い顔、完。って映画なのだが、これは自主映画である。
金子正次は33歳で亡くなったが、死を覚悟してこの映画を作った。金子と親しかったという松田優作もまた、『ブラック・レイン』で病魔と闘いながら撮影していたが、死の間際の輝きである。星は、死ぬ時に美しく発光する。
『竜二』の撮影の現場を映画化した、『竜二-FOREVER −』という映画もあって、これは金子役を高橋克典が演じていて、元々似ているのもあって、いい感じで再現している。
つまり、『竜二』は『竜二-FOREVER −』とセットで観ると3倍楽しめるわけで、さらに5倍楽しもうと思ったら、『竜二-映画に賭けた33歳の生涯』がオススメである。
この本では金子の映画作りを追ったドキュメントが描かれる。
自主映画で大変なのは何よりも予算である。この『竜二』も低予算映画で、桜金造は撮影現場に来て、まじでここ大丈夫か?と思ったそうだ。
また、永島暎子に脚本を読んでもらい、喫茶店で「乗らせて頂きます」と出演承諾を勝ち得た時、金子たちは「この映画、勝ったな」と仲間内で大喜びする様が微笑ましい。
この本には金子の焦燥も、希望も、情熱も描かれている。
金子は、この作品意外にもたくさんの脚本を書いている。俳優が脚本を書き、俺が主演するんだ、というのはシルベスター・スタローンが『ロッキー』で実現させたが、『ロッキー』にせよ、『竜二』にせよ、どちらも普通の映画にはない、輝きが内包されている。
商売じゃないんだ、生き様なんだと、映画そのものが咆哮しているかの如きである。