『さらば、わが愛/覇王別姫』 VS 『国宝』
『さらば、わが愛/覇王別姫』を鑑賞する。
この映画は存在は識っていたが、観たことがなかった、のだが、AmazonプライムのKADOKAWAチャンネルに入っていて、それを観た。今年、4Kデジタルリマスターも公開されていたネ。
で、1993年の映画、チェン・カイコー監督作、中国・香港・台湾合作で、京劇がテーマになっている。京劇もまた詳しくない。なので、識らないこと尽くめで観たのだが、うーん、名作!
1924年からスタートして、1977年、文化大革命の終焉で集結する、半世紀にも及ぶ長大な物語だが、映画も2時間50分くらいあって、長篇だ。でも、面白いのですぐに終わる。
まぁ、面倒くさいので、あらすじは調べて欲しいのだが、基本的には、藝術と同性愛を主軸に、時代の荒波に翻弄される3名の男女の物語、である。
主人公の蝶衣を演じるのはレスリー・チャン。このレスリー・チャンがとにかくいいのよ、本当に素敵だし、スターのオーラに溢れているね、で、コン・リーとか出ていた。
まぁ、私は中国映画はそこまで詳しくなくて、それでも、やはり、チャン・イーモウとか、アン・リーとか、チェン・カイコーは識っているわけで、まぁ、そういうのは、映画雑誌などを読んでいると、自然と吸収するわけだが、今作はやはり歴史絵巻、的なビジュアルなので、まぁ、『ラスト・エンペラー』とか、ああいうのを想起、していたのだが、まぁ、歴史絵巻であることには間違いがないのだが、それよりも、より藝術や文化に踏み込んでいて好きな塩梅。まぁ、『ラスト・エンペラー』と時代は一緒だが。
然し、今作、まぁ、同性愛映画である。冒頭、主人公の小豆子が母に連れられて役者養成所に来るのだが、小豆子は多指症で、指が6本あり、そんな身体では役者は無理だと門前払い、母はこの子は遊郭で育ったが、もう置いておけないと、息子の6本目の指を包丁で切り落とし、そのまま養成所においていく。小豆子は稀な美少年だった。その美しい彼も、この養成所の地獄の特訓で疲労困憊し、まぁ、淫売の息子だの虐められている中、小石頭なるガキ大将的少年が守ってくれて、気にかけてくれる。それで彼は小石頭に恋をしてしまう。そこから役者修行の日々が続いていくのが冒頭だが、まぁ、同性愛映画である。小豆子がトランスジェンダーなのかまではわからなかったが、彼はまさにヒロインであり、一途に小石頭を愛して、そして大きくなって蝶衣と小楼に改名する。
二人がよく演じるのが『覇王別姫』という演目で、これは京劇俳優の梅蘭芳のために書かれたそうだが、項羽と虞美人の物語で、悲恋の物語なのだが、これが、物語のタイトルと重ね合わされる見事なストーリー展開で、今作も悲恋の物語としてオチている。
然し、レスリー・チャンは見事な演技で、え、うそ……蝶衣かわいい……、きゅんっ……てなっちゃうこと請け合いのプライドが高く一途で嫉妬深く愛らしい、まさに主人公でありヒロインを見事に演じており、愛される小楼は鈍感で現実的、お前のことは好きだけどさ、舞台とプライベートは分けようゼ!という、主人公からはやきもきしてみちゃう男である。
それから、コン・リー演じる小楼の奥さん菊仙は元女郎であるが、逞しく時代を生きる蝶衣のライバル(困惑)的なキャラクターである。コン・リー良かったなぁ、コン・リー。
ラブコメ的展開も楽しいが、然し、物語は激動の時代である。なので、まぁ、やはり、戦争から文化大革命まで、とんでもない試練が御三方を襲うし、そこには、栄枯盛衰、裏切り、暴力、死、と、辛いことの釣瓶打ち、特に最後は本当に引き込まれたね、カメラが炎を間に置いて尋問される小楼を囚えるシーンの演出はすごいなぁ。とにかくレイアウトがいちいち決まっているし、1920年代、1930年代、1940年代、それから1960年代のセットがいちいちすごいし、1920年代の少年期はやはり牧歌的、というか黄金時代、の感じで、そりゃあ『ロミオの青い空』じゃないけれど、ロミオとアルフレドじゃないけれど、少年期の美しさってあるじゃない?この映画、もちろん、画面は美しいのだけれども、やっぱり少年同士裸で抱き合って温めるところとか、純粋なね、本当に純粋な恋の始まりであり情愛がね、美しいんだよね。思い出したのが、塚本邦雄の短歌、『割礼の前夜 無花果の杜で少年同士ほほよせ』かな。それからね、蝶衣がね、全部持っていくね、言葉は無粋、ってなもんで、表情で見せる、いいなぁ、と思って観ましたよ。
でね、まぁ、性的搾取とか、そういう嫌な文化も描いているが、まぁ、そういうところも隠していないところが一層この物語の悲壮なところを引き上げている。
来年公開される、『国宝』も、私は、小説版は正直あんまり面白くなかったが、それも思い出した。これも少年期から始まる一大サーガなわけですからね、『国宝』も。戦後、1950年代〜現代までの、二人の女形の話なわけで、然し、『国宝』は人生の艱難辛苦、を、二人の役者を通して描いて、藝の高みへ向かう話なわけだけど、それだけで終わってて、今作はそれは当然のこと一つの要素として描いているだけじゃなく、一貫して一つの愛を『覇王別姫』の演目と絡めて中国の近代史を語るという荒業をあまりにも美しいイメージで描いているので、半端ないなぁ〜と思う。
まぁ、これは、『国宝』も観なければならない。