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台湾夢中人 つげ義春 『雨の中の欲情』

『雨の中の欲情』をレイトショーにて鑑賞。

原作はつげ義春。主演は成田凌、監督は片山慎三。

つげ義春原作映画、これは久方ぶりの映像化、20年ぶりくらいだ。

そして、今作はほとんどのシーンが台湾の嘉義市で撮影されており、これは台湾映画なのである。私は、つげ義春は結構読んでいるが、まぁ、読んでいない作品もあり、今作は、表題に関しての内容は冒頭のみで、あとは他の要素など色々足しているとのこと。

つげ義春、と、いえば、私は『赤い花』、そして、革命的だと言われた『ねじ式』がある。

『ねじ式』は、夢を漫画にしたものだが、シュール、かつ、その脈絡のない出来事の連続で構成された物語は熱狂的なファンも多く、ミームにもなっている。

最近読んだ『マンガと貧乏』においても、『ねじ式』の制作秘話、まぁ、秘話ってほどではないのだが、夢を漫画にする話を訥々と語っているインタビューも収録されていた。

で、今作は、まさに夢の漫画である『雨の中の欲情』から物語がスタートして、主人公の義男が、若い女と小さな小屋で大雨の中雨宿りしているシーンから始まる。そうして、義男が、金属を身に着けていると雷が落ちるかもしれない、と言って、二人は服を脱ぎ、ほぼ全裸になり、そうして、小屋自体にも雷が落ちるかもしれないと外に飛び出し、そこで泥だらけになりながらセックスをする。開口一番、3分で合体する映画であり、デートでは絶対に選んではいけない。

そして、二人が果てて、空に虹が見えると、ショットは変わり、それが夢であること、起きた義男がそれを漫画にするシーンで、彼が漫画家志望であることが示される。

ちなみに、虹の橋の下、そう、虹の橋を渡る『セデック・バレ』を思い出すが(台湾だし)、戦士たちが渡るその横で、全裸の女性と全裸の成田凌、成田凌のおちんちんはぼかしで見えないが、とてもいい笑顔をしていた。

で、これ以上のあらすじは面倒くさいので、公式ホームページを読んでほしいのだが、然し、なんとも、この映画、まぁ、つげ義春の漫画もセックスは多いが、別に劣情を催すような描写ではなく、今作は、そのあたりは、基本的にはなかなかハードなシーンが多く入っていて、ヒロインを演じる中村映里子さんは、激しい濡れ場を全部で10分以上演じている。
やはり、そこは、漫画の淡白さ(過剰なものもあるが)と、実写の肉体性、特に、中村映里子さん演じる福子さんは汗かき設定なので、常に濡れており、これは、まぁ、原田芳雄が、いつも濡れて上半身裸、みたいなものであり、視覚的な説得力が違う。画面に、どうしても性が横溢していく。

さて、今作はセックスの映画でもあり、同時に、夢の映画でもある。以下はネタバレになるが、基本的には、2時間18分、という、ロングな上映タイム、これは、もう、先日観た、『素敵なダイナマイトスキャンダル』も2時間18分、つまりは、エロ映画は、2時間18分という、そういう制約があるのかないのか、どっちなんだい!って感じだが、まぁ、偶然だ。
で、2時間18分のうち、1時間くらいは夢の話だ。まぁ、『インセプション』、みたいな感じで、始めの1時間くらいは、超シュールな夢、それからシュールな現実が描かれるが、それ自体が後半夢であることがわかり、ここに、夢特有の、整合性のなさ、が描かれて、どこまでが夢で、どこまでが現実か、それは説明されないまま進み、なんとなくこうだろうな、という道筋はあれども、2時間18分通して夢のような映画である。

台湾で撮影されているからか、美術の感じが独特で、まぁ、これはこれで、つげ義春的世界の構成に一役買っているな、と思うのだが、然し、実はこれがミスリードで、台湾である意味はちゃんとあるのである。

『カメラを止めるな!』フィーチャリング『ジェイコブス・ラダー』&『エンゼル・ハート』ラブズ『インセプション』、みたいな感じで、そこにエロがたっぷりと注がれている塩梅。
後半に入ると、パズルのピースがハマっていく快楽がある。ある、が、然し、新たな夢の迷宮へと足を踏み入れることにもなる。

然し、中盤以降、ものすごく甘ったるいラブストーリー、といえばいいのか、感情の機微にシフトしすぎで、そのあたりが、逆につげ義春的な匂いが消えていて、漫画から立ち上るドライな感覚が、ウェットに寄り過ぎているのではないかと思った。

で、まぁ、中盤、これは戦争映画になるのだが、この戦場のシーン、これはすごい。多分、日本では撮るのは相当に難しいだろうと思われるカメラが走り回る大スペクタルシーンが展開され、え、つげ義春の映画じゃなかったっけ?と思うこと請け合い。

然し、今作は、やっぱりいちばん美味しい役どころで、一番味があったのは、森田剛。いやぁ、いいなぁ、森田剛、いいなぁ、いいなぁ。と思いながら、彼が出てくると本当に画面に見入っちゃう。途中、髭のせいか、何度か松本人志に見えたが。

美術がとにかく美しく、台湾のカラーリングも相まって、異国映画の匂いがすごくする。

美術は素晴らしく、夢の世界、白昼夢的、悪夢的な世界を、美しい色で構築していて、現実感と非現実感のあわいを巧みに融合させている。
ただ、1本の映画、として考えた場合、片山慎三監督の芸術作品と考えればこれはもう素晴らしいが、昭和感、があんまりないので、そこら辺はつげ感を感じられるところ、そうでないところが半々で、少し気になった。
まぁ、私は、つげ義春の俗世を捨てたい気分に、それから貧乏旅行などが好きなので、そういうタイプの映画でもない。
撮影では、移動する主人公をカメラが追ってパンすると昼から夜へ、夜から昼へと変化するシーンがあって、そこは嘘ワンカットなのか、CGなのか、それとも夜を暗幕で作っているのか、良いシーンだった。

同じエロ文芸映画である韓国映画の『お嬢さん』を彷彿とさせるカラーで、これは韓国映画とかにも共通するが、異国の感覚なのだろうか。
まぁ、そもそも、台湾が舞台なので、それは当たり前なのだが。
『お嬢さん』も美術は最高に美しく、今はAmazonプライムで無料なので、おすすめである。

まぁ、今作、なかなかに良い映画で、色々書いたけど、今年観た映画の中では、今のとこ、1番好き。

思い返せば、私、今年は映画ランキングをつけていないので、今回付けてみる。

2024年度映画館で観た作品ランキング

1位 雨の中の欲情
2位 エイリアン:ロムルス
3位 マッドマックス:フュリオサ
4位 本心
5位 バッド・ボーイズ:RIDE OR DIE
6位 ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
7位 インフィニティ・プール
8位 DUNE Part2
9位 オッペンハイマー
10位 グラディエーター2:英雄を呼ぶ声
11位 八犬伝
12位 十一人の賊軍
13位 ぼくとパパ、約束の週末
14位 めくらやなぎと眠る女
15位 ボーはおそれている
16位 箱男

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