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シュトロハイム大全③ 『メリー・ウィドウ』とその美しきポスター。

以前、エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督について記事を書いたとき、
私が一番好きなのが1925年の映画、『メリー・ウィドウ』だと書いたのだが、まぁ、『メリー・ウィドウ』に関しては、来年で、生誕100周年、だということに気づいた。

若干のオーリー感が。

『メリー・ウィドウ』は、陽気な未亡人、という意味で、そもそもは、1905年にフランツ・レハールによるオペレッタを元にした作品である。
映画版は、①ハンガリー製の1918年版、②シュトロハイムの1925年版、③エルンスト・ルビッチの1934年版、④カーティス・バーンハートの1952年版、⑤ヴェルナー・ヤコブスの1962年版等が存在する。

シュトロハイム版は無論サイレント映画であり、なので、今も、YouTubeなどでアップされているものの伴奏は、後付のやつである。

これは、シュトロハイム作品の中ではちゃんと完成している方の作品で、ただ、相当数のカットシーンがあるらしいのだ。
乱痴気騒ぎの乱交シーンの撮影を、セットに鍵をかけて、日に20時間もかけ、何週間も、それこそへとへとになるまで撮影していたとか、別の映画、『結婚行進曲』の乱痴気シーンも同様で、立入禁止のセットを鍵穴から覗くと、とてつもない淫乱行為が繰り広げられていたとか、まことしやかに噂が流れる。乱交シーンには本物の娼婦やSM嬢が雇われて、たっぷりとチップをもらっていたという、然し、それは全てカットされてしまう。

フィルム王

また、このオペレッタを撮影中に、監督シュトロハイムは主演のメイ・マレーと大揉めに揉めて、と、いうか、シュトロハイムはいつも誰かと揉めており、完璧主義、というよりも、彼のサディスト的な面が、役者やスタッフには大変だったらしいのだ。

メイ・マレーはサイレント映画時代の大スターで、トーキーになると落ちぶれて、晩年は零落していた。今作の主演のジョン・ギルバートも同様、彼もサイレントの大スターで、然し、トーキーへの移行の際、その声質の問題だったらしいのだが、イメージが違うと、これもまた落ちぶれて仕事が無くなりアル中に、そして心臓発作で若くして死ぬ。
このジョン・ギルバートがデミアン・チャゼルの『バビロン』のブラピ演じるジャック・コンラッドのモデルなのだが、まぁ、メイ・マレーも、落ちぶれたサイレント時代の大女優、ノーマ・デズモンド(演じるのはサイレントの女神のグロリア・スワンソンで彼女自体も重なるものがある)のモデルとのことで、そう考えると、後世に様々な影響を及ぼしている。無論、『バビロン』でのマーゴット・ロビー演じるネリーのモデルはクララ・ボウらしいが、マレーもその一部であるのだろう。

ジョン・ギルバートもまた、撮影中にシュトロハイムにディスられて、マジギレ寸前だったという。
シュトロハイムは全員を敵に回す、ニヤニヤ笑いながら。

ただ、シュトロハイムは、今作の出来にはあまり満足していないようで、やはり、それは、形にはなったといえ、その撮影した大量のフィルムはハサミを入れられてジャンクされてしまう、完璧主義者の脳内には偉大な完成形があったのだろうが、その砂上の楼閣を完全に崩されてしまった。

また、いつもならばシュトロハイムが演じるであろう彼のアルターエゴ的なミルコ皇子は、ロイ・ダルシーがイキイキと演じていて、これにはシュトロハイムも御満悦。

で、この映画は、モノクロームではあるのだけれども、サイレントではあるのだけれども、やはり、豪華予算、シュトロハイムの映画だけに、豪華に次ぐ豪華、「豪華の満漢全席や〜!」と言いたくなるほどに画面がリッチであり、しかも、出ている女優男優は、病的な顔をしている、これが良い。
特に、メイ・マレーの顔つきがとても病的で、まぁ、サイレント映画ってそういう顔になるのかナ、とか思いつつ、昔の化粧の仕方も関係あるのかしらん、と、やはり、化粧、これで様々な顔に七変化、百変化するのが女性であり女優だ。と、いうよりも、白黒の魔法なのだろうなぁ、ピアノだって病的な肉体じゃあないか。

ソフトフォーカスのおかげだナ。でもこの眼がいいよね。

で、今作、いつもいつも、自分のビジョンの為に金を湯水のごとく使うシュトロハイム、今作もウルトラに金をかけた。1922年の『愚なる妻』、これは当時は最高額と言われる制作費100万ドル、それだけかけたからにはもはや宣伝文句にも100万ドル映画、そう謳う、現在のドル価値で言えば、1550万ドルなので、まぁ、今の感覚に換算すると、ざっと23億円くらい(多分)、で、『メリー・ウィドウ』は当時で60万ドル、なのだが、然し、これは当たった。めちゃくちゃに当たって、シュトロハイム映画史上最高の売上、全世界で200万ドル弱くらい稼いだ。

しゅ、しゅごい…。シュトロハイムは、いつもスタジオに嫌な思いをさせていたが、まぁ、儲けが出れば、最後に帳尻が合えば、それでいいのである。とはいえ、もう勘弁、MGMはシュトロハイムに匙を投げた。

で、私は、このシュトロハイムの超大作のポスターがすごく欲しかったのである。でも、最近はどんどん、ドルが高くなっている。そのポスターは2500ドルした。そう、今の相場なら、380,000円くらいである。然し、少し前は、30万円に届くか届かないか、くらいだったのに、円が安くなって、値が上がっていく。早晩、40万円を超えるだろう。この美しいポスター、1925年に実際に劇場にかかっていたという美しいポスター。
つまり、買えるものは、無くなる前に、或いは、高くなる前に買え!ということである。


究極に美しいこのポスター。100年前でこの美しさはどうよ。
このポスター販売サイト、おしゃれなのが多いのよね〜。

まぁ、そもそも2500ドルなので、始めからとても無理なんだけど。

そういえば、淀川長治先生は、シュトロハイムが大好きで大好きで、『おろかなる妻』、これの公開時に、実家(淀川先生は花街の料理席貸業『淀川』のお坊ちゃま)に貼らせてよ〜と宣伝会社が持ってくる、その貼られたポスターを、ニスが効いて輝いているそのポスターを、うっとりと眺めていたのだという。
ポスターの魔法だよね。


 
 
 
 
 

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