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宇宙論で誤解されがちなこと

私の専門は宇宙論、特に観測的宇宙論です。宇宙論は宇宙の起源や進化、構造、さらには宇宙の終焉などを探求する科学分野です。壮大な世界を取り扱うからこそ、一般の人に興味をもってもらいやすい一方で、誤解をもたれやすい分野でもあります。そこで、いくつか誤解されがちな内容を取り上げていきたいと思います。


1. 宇宙は「ビッグバン」という『爆発』によって誕生した。

私達の住む宇宙は現在、膨張を続けています。ということは時間を遡っていくと宇宙はどんどん小さくなっていき、ある瞬間には宇宙の始まりに行き着きます。そして、それをビッグバンと言います。おそらく、多くの人はこの様に考えていると思います。この考え方自体は正しいです。しかし、ビッグバンについてよくある誤解として、「ビッグバンはある一点で宇宙が『爆発』した」というものです。ビッグバン理論は、宇宙が138億年前に極めて高温で密度の高い状態から急激に膨張し始めたという理論です。そして、それは宇宙の至る場所で起きていました。また、ビッグバン理論の最も重要な事は、高温・高密度な宇宙で陽子や電子、中性子が飛び交っており、それらが反応することで、水素やヘリウムなどの「軽元素」を合成することです。

したがって、ある一点で宇宙が「爆発」したというわけではありません。また、爆発という言葉からは物質が飛び散るイメージを連想しますが、ビッグバンではある一点で爆発が起きて、そこから物質が飛び散ったのではなく、どちらかというとぎゅうぎゅうのサウナに詰め込まれた人たちが相撲を取っているというイメージのほうが良いかもしれません。


2. 宇宙には「中心」がある

これは1番目の誤解とも関係していますが、宇宙には中心がありません。もし仮に、宇宙のある一点でビッグバンが起きたならば、現在の宇宙でもその一点は特別な場所であり、宇宙の中心となりますが、先述の通り、ビッグバンはある一点で起きたのではなく、宇宙のあらゆる場所で起きたので、宇宙に特別な場所はありません。これは宇宙マイクロ波背景放射の観測によっても確かめられています。ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射は宇宙の至る場所からやってくるのが観測されており、宇宙に特別な場所の無いことを示しています。

もちろん、あなたの人生を考えるときは、あなた自身が宇宙の中心ではありますが。


3. 宇宙は「永遠」に続く

これは誤解とまでは言えないかもしれません。現在の宇宙は膨張をしていますが、この先の宇宙がどうなるかは分かりません。もしかしたらこのまま宇宙は永遠に膨張を続けるかもしれませんし、あるいは、宇宙はどこかで収縮に転じて最期には再びビッグバンが起きるかもしれません。あるいは、宇宙は完全に熱的に平衡になり、冷たくなって死を迎えるかもしれないし、全ての物質は素粒子レベルでバラバラになる可能性もあります。この様に宇宙の終焉については色々なシナリオが考えられていますが、実際にはどうなるかは分かりません。この先、1000億年、あるいはそれ以上待って、観測してみたいところです。


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