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ポートフォリオ 3

『まちのうわさ』

 えっと、この町の怖い噂だっけ。あたし結構知ってるよ。
 あそこの踏切はね、毎年秋の終わりから暮れごろまで、よく人死にがでるんだ。
 飛び込んじゃう人もいるし、おばあさんの手押し車が線路に挟まって動かなくなったとか、長いトレーラーが渡り切れなかったとか、大事故じゃないけどいろいろ起きてんの。
 知ってる?本当のところ、電車って一年に一回、人の生き血を吸わないと動かないしくみになってるんだって。
 それでね、この先の道を右に曲がったところにまるはな旅館っていうぼろっちい宿屋があるんだけど、そこの二階のはじっこの部屋に掛け軸の掛かった床の間があるんだって。
 その部屋に泊まったら仲居さんが敷いてくれた布団を動かしちゃいけないらしいよ。掛け軸を頭の方にして寝るとね、翌朝お客さん、消えてるんだって。布団の中に着るものがそっくり残っててさ。身の回りの品も全部あるのに本人だけいなくなってるんだって。
 あとはねぇ、そうそう、橋の向こうに背の高いマンションあるじゃない。
あのエレベーターに四時四十四分に乗ったら最上階行きのボタンを押しちゃいけないんだって。いつまででも上り続けてドアが開かないんだってさ。それでね、え、これからどこへ行くんだ?って。やだ、案内してくれって言ったのお兄さんじゃない。
 まだまだこれからだよ。帰るのはどうするんだ?って。
 もう、そんなに帰りたければ帰ればいいじゃない。その路地入ってまっすぐまぁっすぐいけば駅に着くよ。振り返っちゃだめだからね。じゃあね。




ショートショートのワークショップ後に書いたもう一作。
大学の合評会がテーマ『怪談』だったので
そのとき、考えたネタを盛り込んでみたもの。

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