武人の心得

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死中に活を求む・・日露戦争のある少尉

 これは今から120年前、明治37年~38年(1904年~1905年)に行われた日露戦争で、絶体絶命のピンチから立ち直り、大きな功績を挙げたある騎兵少尉の話です。日露戦争では多くの逸話がありますが、この話も大変示唆に富んでいます。「死中に活を求める」言うは易く行うは難し。  日露戦争の終盤、日本軍はロシア軍の拠点・奉天へ向けた大作戦を開始する。奉天会戦である。明治38年2月21日、日本軍右翼が攻撃を開始。3月1日から、左翼の第三軍と第二軍が奉天の側面から背後へ向けて前進した。

    • 平安武士の夜間行動はやばかった!

       ウクライナ戦争ではあまり歩兵や戦車などの夜間戦闘は余り目にしない。夜間は視野が制限され、色彩も失われ、視覚が大幅に制限されると同時に、耳が研ぎ澄まされ、皮膚感覚が鋭敏となる。人類が始まって以来、夜は危険に溢れ、人間の遺伝子に刻み込まれている。個人行動もさることながら、組織的な行動は困難の連続である。ましてや地図、コンパス、照明、通信機・携帯電話などの無い時代では統制の取れた夜間行動はどれほど困難であるか、想像に難くない。  時は平安時代中期、西暦1000年頃の話しである。

      • 生命も名も金も要らぬ人は始末に困る

         明治維新の立役者、西郷隆盛をして「金もいらぬ、名誉もいらぬ、命もいらぬ人は始末に困るが、そのような人でなければ天下の偉業は成し遂げられない」と賞賛させた偉人、山岡鉄舟。江戸城無血開城ための西郷隆盛と勝海舟のトップ会談を実現させた、西郷隆盛と山岡鉄舟の膝詰め談判は後世に語り継がれるべき逸話です。鉄舟に感銘を受けた西郷は、その後自らも無欲を貫いたと言われています。混乱が拍車をかける現代に、命も名誉もお金も要らず、無我無私の忠胆なる人が求められています。    山岡鉄舟と旧友益満

        • ある日本陸軍将校の心構え

           軍隊や自衛隊の統率者(特に指揮官)はその道を目指した者にとっては人生の目標であり、大変に名誉なことである。しかし、多くの部下を抱えることは任務がそれだけ複雑で難しくなった証しであり、その自覚がないまま指揮官を務めると極めて思い責務を全うすることができないことにもなりかねない。  他方、統率者(指揮官)としての任務遂行は部下一人一人が己の任務・役割を日々愚直に遂行しているからこそ、組織全体としての重大な任務が成し遂げられているのだと言うことを自覚することが不可欠であろう。部下

          精強な部隊(組織)の作り方②: 継続的な訓練の絶大な効果

           自衛隊の新隊員教育隊、警察学校、消防学校の教育の厳しさは中途半端なものではない。つい先日まで高校生や大学生であった者が僅か数ヶ月の教育で見違えるように成長し、教育の修了式に参列したご両親や学校の先生方に自然と感謝の言葉を述べ、その変化に大変驚く人が多い。当然のことながら、その道は平坦ではない。残念ながら途中で去って行く者もいなくはない。彼ら彼女らは厳しい訓練を経て立派な自衛官・警察官・消防士の一員となる。しかもその数ヶ月を共に乗り越えた同期生の絆は一生ものである。    さ

          精強な部隊(組織)の作り方②: 継続的な訓練の絶大な効果

          精強な部隊(組織)の作り方①: 古代ローマ軍の訓練

           ある日、綱引きの大会で華奢な女性チームが屈強そうな男性チームに見事に勝利する瞬間を目撃し、大きな衝撃と感動を得た。おそらく誰もが男性チームが勝利するであろうと思っていたに違いない。最初は男性チームに押されがちであり、全員が体重を後ろにかけ、両足に力をいれて踏ん張っている。ところが、リーダーのかけ声とともに、「ワッショイ」「ワッショイ」と一致団結してじりじり綱を引き、最後には勝ってしまったのである。一人一人の力は比べるべくもない。しかし、歴戦の女性チームは組織力でまとまりの無

          精強な部隊(組織)の作り方①: 古代ローマ軍の訓練

          「基本に忠実」はあくまで基本

           剣術の言葉で「守」、「破」、「離」という言葉があります。「守」はひたすら基本の型を守り、身に付けること、「破」は「守」で学んだ基本の型を応用すること、「離」は当初の基本の型から離れて新たな型を創出すること。  「守」は剣道での素振りなどが該当します。「破」は基本形を基礎とした応用であり、試合などでは基本だけでは勝てないことから、応用動作が必要となります。「離」は極端な例では二刀流などの従来の型にはない型を作り出すものです。  自衛隊では「基本基礎」を徹底して学びます。これ

          「基本に忠実」はあくまで基本

          同じ失敗を繰り返すことが本当の失敗

           世界には多くの国があり、人種があります。言葉も違えば、歴史や文化、宗教も異なります。それぞれの人種には文化的なバックグラウンドが存在します。例えば、中国人には「面子」、韓国人には「恨」。多くの日本人に共通するのが「恥」の意識です。小さな頃からすり込まれた「恥」の意識は、多くの日本人にあらゆる場面で無意識に影響を与えています。「恥」の文化は順法精神、秩序の維持、協調性の形成など良い面も多々ありますが、「恥」を恐れて消極的になる面も否定できません。もじもじ君、もじもじさんが多い

          同じ失敗を繰り返すことが本当の失敗

          歴戦の第一線部隊指揮官の死生観

           平和と安定、安全と安心のために日夜汗を流し、自らの命すら危険に晒している人達がいる。自衛官、警察官、消防士など生死の境目に立つ人、特にそのリーダーはどのように死生を理解し、覚悟を決めるのか?100人の統率者に100通りの統率があると言われているが、死生観はトップ・リーダーから一隊員に至るまで、1000人いれば1000通りの死生観がある。これも一つの死生観であろう。  高杉善治陸軍歩兵大尉は、支那事変の当初から歩兵中隊長として、主要な戦闘に参加した歴戦の中隊長である。その著

          歴戦の第一線部隊指揮官の死生観