SHRM-CPを日本で受験した話
この記事は、SHRM-CPの受験体験記です。SHRM-CPを受験予定 or 検討中の人に役立ててもらえたら嬉しいなと思い、記事を作成してみました。情報は2024年7月当時のもので、SHRMの公式見解ではありませんので、あらかじめご了承くださいませ。
1. 経緯
SHRM-CPとは、SHRM(The Society for Human Resource Management)という国際的な人事プロ組織が認定する2つの資格のうちの一つで、人事業務の初級から中級者を対象にしています。
他方、もう一つの資格であるSHRM-SCPは、人事経験豊富なマネジメントや上級者向けのものです。いずれも人事関連の知識や状況判断能力を問う内容になっています。
資格を取ろうとする目的は人それぞれだと思いますが、私の場合、人事としてのスキルや知識を海外で証明してみたいと思い挑戦しました。新卒で日本企業に入ってから5年間、私は労務担当者やコンサルタントとして人事の仕事に関わってきました。しかし、家族の海外赴任が決まり、私自身の日本国内のキャリアを中断してアメリカで暮らすことになりました。これまでの経験が少しでも今後のキャリアにつながれば良いなと思い、国際的な資格を取得することを検討したのです。
国際的な人事関連の資格を探すと、「SHRM」と「HRCI」という2つの組織の資格試験がすぐに見つかりました(Masa様の記事が参考になります。IndeedによるSHRMとHRCIの比較記事も読みやすいです)。
米国勤務経験のある知り合いに相談したら、知名度があるからとSHRMを勧められましたし、試験が選択式問題のみで構成されており解答しやすいだろうと思ったので、私は、HRCIではなくSHRMを受験することに決めました。そして、自分のキャリアレベルに近いであろうSHRM-CPに申し込みました。
こんな経緯から、受験を決意して申し込みしたのが、試験日のおよそ2か月半前のことです。
2. 申し込み
日本から個人で受験する場合、SHRMのホームページから申し込み手続きをします。手続きの概要は以下の通りです。
・試験のwindowは年間2回(5-7月、12-2月)
・Windowごとに申込受付期間が設定
・申込時期・その他条件により受験料が変動
・Prometric(試験実施会社)のページで日程と受験形式を選択
私が申し込んだ時点で、7月は平均して1日5枠ほどが空いていたので、かなり多くの受験日程枠が設けられているようです。受験形式はテスト会場(東京/大阪)受験か、 自宅遠隔受験のいずれかを選びます。
振り返ってみると、申し込み時に注意すべき点が2つありました。1つめは、受験料と手数料です。一定時期(Early-Bird Deadline)までに申し込めば受験料が安くなります($435)が、そうでなければ通常の受験料は$510です。昨今の円安も重なり、私にとっては決して安くない値段でした。また、一度予約した試験日程をあとから変更する場合、それだけで変更手数料の$53が徴収されます。費用のことを考えるならば、申し込みはなるべく早期に、とはいえ、慎重に日程を選ぶ必要があります。
もう1つの注意点は、自宅受験の場合の受験環境です。PCの動作だけでなく、自分のベストを尽くすために「本当に自宅受験で問題ないか」を今一度確かめておくべきです。普段から問題なく在宅勤務をしていた私は、自宅受験を選択しました。ところが試験当日に限って、近所の工事などの騒音がひどく、正直、集中するのが大変でした。自宅受験は、移動の手間が無く、慣れた場所で受けられるという点で確かにメリットが大きいです。しかし、4時間以上にわたって受験環境を維持する自信がなければ、多少の費用と時間をかけても、東京・大阪の各試験会場へ出向いた方が良いかもしれません。
3. 勉強方法
初めての資格試験を受ける時は、他の人の勉強方法を参考にするのが良いでしょう。SHRM-CPの試験勉強に関しても、YouTubeには動画が多くありますし、redditという掲示板で、受験生や経験者によるリアルな情報が得られます。英語を難なく読み書きできる方は、これらの情報を参考にすれば、自分に合った勉強法を見つけることができると思います。
ただ、英語勉強中(TOEIC750点くらいだと思います)の私にとって、英語の情報を取捨選択するのは大変です。ある程度まで英文のまま読めても、わからない単語やニュアンスがあります。しかし、google翻訳やDeepLを毎回使うのは面倒です。勉強を始める前から細かな情報集めに時間を費やしてしまうのもあまり賢くありません。
そこで、私はとりあえず「IPO」(インプット、プロセス、アウトプット)の3点で勉強の全体像をつかむところから始め、その枠組みに沿って都度、情報をアップデートしながら勉強を進めることにしました。
アウトプット|試験で求められるパフォーマンスは?
試験構成:Topic Areas別に合計134問。知識/状況判断に関する4択
合格基準:合格点設定は無し⇒合格基準を知ることができない
試験時間:3時間40分
各試験の難易度調整が入るため合格点が変動するらしく、「何点とれば合格」という仕組みではないようです(受験後、合格者は全て200点満点、不合格者は200点未満のスコアで受験結果がフィードバックされます)。公式HPのSample Questions(数問)で出題形式を確認できますが、過去問はありません。ただ、BASKという、SHRMが独自に作った人事の知識体系(無料ダウンロード可)がありますので、それは先に目を通した方が良さそうです。なぜなら、「どの分野までが『人事に必要な知識』に含まれるのか」とか、「SHRMはどんな考え方をする傾向にあるのか」をあらかじめ把握するのに役立つからです。
インプット|利用できるリソースは?
公式教材 :BASK、SHRM Learning System(利用料$1,000超)
非公式教材:解説・問題集、ラーニングシステムが多数存在
学習時間 :一般的に100時間ほど
公式のSHRM Learning Systemは値段が非常に高く、redditでも不要論が多かったため、私は最初から検討しませんでした。その代わり、私が今回使用した教材は以下の3点でした。
・BASK 出題分野の把握と、「SHRMっぽい」考え方・傾向を知る
・Study.com 動画中心のラーニングシステム 約350のlectureから構成
・Mometrix 模試4回分の問題集 解説付 ややレベル高め
Study.comはreddit上の口コミであまりお勧めに出てきませんが、Youtubeでは公式Learing Systemの代用教材として紹介されていました。約$60/月の利用料がかかります。動画中心で構成された教材なので、英語が拙い私にとっては文章のみの教科書よりも集中力が続きましたし、確認テストがたくさん用意されているため、インプット/アウトプットを繰り返すことができ、知識の定着に役立ったと思います。
Mometrixは、Amazonやredditで評判が良かった問題集のうちの一つです。最新版はAmazonで¥8,160です。前半の解説書パートはStudy.comよりも細かい内容まで書かれていて、後半の模擬テストについても、reddit上では「実際の試験よりも難しい」との声がありました。とはいえ、問題形式に慣れるうえで有効な教材だったと思います。また、他の問題集が日本国内への発送に数週間を要するのとは異なり、注文してから数日で手元に届くのもMometrixの良い点です。
そのほかの教材について、掲示板やレビュー等を見る限り、解説書はAll-In-One Exam Guideの評判が良さそうでした。また、Pocket Prepのテストだけをやりこめば十分だ、という受験者の声も多かったように感じます。
学習時間は100時間程度とSHRMのホームページに書かれていたような気がします。ただ、私のように英語が拙い場合、英単語を調べる手間を避けて通れません。そのため、正確に測っていたわけではないですが、全体で150時間くらいを今回の勉強に費やしたと思います。各自の保有する経験や知識、これから勉強に充てられる時間を考慮して学習計画を立てることが必要です。
プロセス|どのように勉強を進めるか?
上記の通り、私はStudy.comのカリキュラムに従いつつ、Mometrixを最初と最後の仕上げに使いました。そのなかで、個人的に実践してみてよかった工夫をいくつかあげておきます。
・まずは最初に模試1回分だけ解く
勉強を始めるまえにいきなり模試を解くことで、現状とあるべきとのギャップが見えました。私の場合、Mometrixの1回分を解いてみたら英単語の知識がかなり不足していることがわかったので、網羅的な学習だけでなく、単語力を強化できるよう意識しました。
・忘れる前に繰り返す
馴染みのない英単語の意味は特に忘れやすいものです。ですから、私は単語帳アプリを使い、忘却する前に記憶を繰り返し思い出すことで、弱点である英単語の知識を補いました。
・学習時間を区切る
SHRMで問われる知識の範囲は広いため、全てを深く理解するのは難しいですし、実際の試験でも細かな知識が問われた印象はありません。勉強するときは一つのことに深入りしないのが大事です。あらかじめ「単元1つあたり15分以内」などと学習時間を区切っておくのが有効だと思いました。
・日本語で内容を理解する
これは私のような未熟な英語学習者の場合の話です。できれば英語は英語のまま理解したかったのですが、私にとっては、日本語情報の方が圧倒的に早く長く記憶できます。また、組織論や心理学などの知識に関しては、日本語のネット記事が多数存在します。ですので、ここは割り切って日本語で理解した方が効率的だと感じました。
4. 受験3日前~当日
試験3日前
試験実施会社のPrometricからリマインダーメールが来ます。自宅受験の場合、「Proproctor」というアプリをPCにインストールすることが必須です。当日に焦らないようにあらかじめ動作確認しましょう。また、面倒ですが、カンニングを疑われないように部屋の片づけをしておきましょう。当日は、想像以上に厳しく受験環境をチェックされます。ですから、極力、物が無い状態にしておくのがおすすめです。
試験当日
試験時間に加え、試験前のID確認、部屋の環境チェック、説明、試験後のアンケート回答などを含めると4時間以上に渡って拘束されます。その間、水も飲めない、休憩なしの体力勝負です(正確に言えば休憩を申し出て取ることはできますが、席に戻ったタイミングで再度ID確認と環境チェックを行う必要があり、その時間も試験時間に含まれてしまいます)。ですから、食事や水分補給など、試験を迎えるまでのコンディショニングが意外と大事だと感じました。
試験開始前手続き
試験開始時間になったらアプリ(Proproctor)を立ち上げ、最初にID確認書類の撮影等を行います。それが終わると、担当者が画面に現れ、その指示に従って部屋の中の映像を撮ります。ラップトップPCごとカメラを動かしました。机の脚元や椅子のクッション裏側まで細かく見せろと言われるので、結構時間がかかります。担当者のアクセントもあり、正直、私には彼の言っていることの3割程度しか理解できませんでしたが、複雑な質問をされたようには思いませんでした。「ポケットに何も入っていないか」とか「誰もこの部屋に入ってこないか」くらいのことを聞かれて「イエス」と答えた程度のやり取りです。
試験開始
担当者のチェックが終わると、今度は試験官とのチャット画面が表示されます。試験官から注意事項が送られてきて、それを読み終わったら試験が開始されます。試験官は画面に現れませんが、試験中、突然「カメラに近づきすぎなので離れてくれ」とか「口元に手を置くな」といったチャットが来ることもありましたので、試験中ずっとこちらを監視しているのは確かだと思いました。
試験は1時間50分×前後半2部構成となっており、各1時間50分のなかで知識問題⇒状況判断問題⇒知識問題の順に問題がまとめられていました。構成が前後半2部に分けられているとはいえ、そのあいだに休憩が入るわけではなく、前半の1時間50分の最終問題の解答を終えたら自動的に後半に突入します。
出題内容をここに記載することはできませんが、私が受けた試験についていえば、Mometrix問題集と比べて知識レベルは易しく、法令関係の出題が少なかったという印象を持ちました。
試験終了後
試験の全3時間40分が終わると、SHRMからのアンケートセッションとなります。今回の学習に費やした時間や受験目的などを聞かれます。それを提出したら試験は終わりです。制限時間になれば解答が済んでいなくても強制的にセッションが終了します。
驚いたのは、このセッションが終わった瞬間に合否結果が通知されたことです。アプリの画面に[passed]の文字があらわれ、「あれ、受かったの?」と呆気にとられたことを覚えています。そのあとはアプリを閉じて試験終了です。
5. 受験後
試験終了後、すぐに「Your score report is available」とのタイトルでメールが届き、試験結果をお知らせしてくれました。この段階での結果は「Preliminaly Exam Results」となっており、正式な結果は3週間後をめどに連絡する、と書いてありました。ただ、掲示板上では、後から不合格になった例は無いよ、という体験談が多くありましたので、そういうことだろうと思います。また、試験終了後3週間を待たずして、1週間で正式な結果通知メールが届きました。
だらだらと書いてきましたが、以上が私のSHRM-CP受験体験記です。
日本の人事資格なら社会保険労務士が有名ですが、なかなか簡単に手を出せる資格ではありません。それ以外は、キャリアカウンセリングや給与計算など、分野を限定するものが多いように感じます。
他方、SHRM-CPは、人事に携わるうえでの全般的な知識を整理して理解する良い機会になります。もちろん、英語なのでハードルはありますし、日本の労働法・慣行のことは学べません。それでも、私にとっては勉強を進める中で新しく学んだことが多くありました。
受験予定や検討中の方にこの記事が役に立つことを願っています。