実行機能障害のハナシ
こんにちは。就労継続支援ビルドの秋田です。
突然ですが。
これからポワローヴィネグレットを作ってください。
いきなりこんなこと言われたらどうしますか?
フランス料理が好きな方が、もしこの文章を読んでいたら
どうぞ半笑いでスルーしてください。
でも、多くの方にとってはポワローヴィネグレットが果たしてなんなのか、見当もつかないのではないでしょうか。
ポワローヴィネグレットとは……
ポワローはフランス語で葱
ヴィネグレットとはフランス語でドレッシングや野菜にかける冷たいソースを指します。
どうやら、ネギのマリネ風サラダのことで、フランスの定番お惣菜のようです。
肉じゃがを作ってください
ポワローヴィネグレットはわからなくても、肉じゃがなら誰でもわかりそうですよね。
でも、誰もが「肉じゃが」を食べたことがあって、どんな味で何が入っているのか?を知っているとは限りません。肉じゃがを一度も作ったことが無い人に、「好きに作っていいですよ」と任せたとしたらどうなるでしょうか?もっと言うと、肉じゃがが何なのかを知らない人に同様のことを言ったら?
どんなカオスが生み出されるか想像もつきません。
ポワローヴィネグレットは、自分もわからないことだから相手にもわからないだろうことがイメージつきやすいです。でも、定番の家庭の味である肉じゃがを知らない人がいるか?ということは想像することが難しいんですよね。
このようなことが頻繁に起きるのが、発達障害者支援の「あるある」です。
多くの人は「こんなことを聞いていいのかな?」「これがわからないと言って怒られたらどうしよう」「聞いちゃいけないんじゃないか」と考えて、質問すらしてくれません。
ちょっと詳しく述べていきますね。
肉じゃがを作ったことが無い人にもわかりやすく伝えよう!と思った人が、いろいろ考え工夫してみました。
1.完成品を見せる
実物を見せるのがイメージしやすいんじゃないかな?と思ったのです。
相手が肉じゃがを見たことも食べたことも無い人、食べたことがある人でも料理経験が無い人だとしたら、完成品である肉じゃがを見せたところで
どうやって作るのか
なにが入っているのか
何味なのかetc…
何もわからなさそうですね。
しかもこの人、肉じゃがであることすら一言も言わず「これを作ってください」としか言っていません。
【この指示で実行できる人】
すでに何度も肉じゃがを作っていて、なにをどうしたらいいのかがわかる。
相手の人との間で想定している肉じゃがが一致している。
わからないことを質問できる
【箱折り作業で例えるなら…】
完成した箱を見せている状態。
2.材料を渡す
材料さえあれば作れるだろう!と、調味料や鍋も含め必要な材料を用意して渡したとします。
もしも相手が料理経験があまり無い人で肉じゃがを作る手順を知らないとか、肉じゃがが何なのかわからない、レシピを検索したことがない場合は実行が難しいです。
材料だけ見て、当てずっぽうにカレーライスを作り始めるかもしれません。
【この指示で実行できる人】
肉じゃがのことは知っている。
材料さえあれば自分でレシピを検索して調理ができる。
わからないときに質問できる
【箱折り作業で例えるなら…】
折る前の箱を渡した状態
3.原料を渡す
もはや目的が不明です。
自分はこれから何をするのか、何から手をつけたらいいのか......。
ていうか、今、なんの時間だっけ???
前提(肉じゃがを作る)の説明が抜けていますので、混乱必至です。
【この指示で実行できる人】
食肉加工業者。畜産業。農業高校(銀の匙!)etc…専門知識があって、いのちの授業的なアレをやりたい人。
【箱折り作業で例えるなら…】
紙漉きをしましょう。
4.レシピを渡す
文字情報でレシピを渡してみました。
日常的に料理をしている人であれば、レシピを見て必要な食材を揃えたり、書いてある通りに材料を切ったり炒めたり煮込んだりできると思います。
文章を読むことの苦手、文章からイメージすることの苦手、調理経験の無さから書いてあることの意味がわからない、一口大とはどのくらいなのかがわからない、包丁を使ったことがない、買い物が苦手etc…
どの部分に苦手があるかによって、難しさが変わります。
【この指示で実行できる人】
調理経験がある(レシピの内容に経験の無い指示が無い)
文章を読んで理解できる
自分で材料を用意できる
わからないときに質問できる
【箱折り作業で例えるなら…】
手順書を渡す。
5.材料・レシピ・完成図を提示して一緒に作る
これから肉じゃがを作ります。
完成図はこのようなものです。
必要な材料は豚肉、ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、調味料です。
調理の手順はここに書いてあります。
作業は実践して見本を見せますので、真似してください。
イメージは、小学校の時の調理実習です。
これで、肉じゃがを見たことも聞いたことも無い人でも一緒に肉じゃがを作って食べることができそうです。
【箱折り作業で例えるなら…】
完成品の箱を見せる
折る前の箱を渡す
手順書を見てもらう
実践して見せる
やってみてもらう
材料を置いてある場所や完成品を置く場所を説明する
肉じゃがを作るために必要な情報とアセスメント
ひと口に肉じゃがと言っても、相手の人が「肉じゃが」が料理であることを知っているか。食べたことがあるか。何味か知っているか。何が入っていて、材料として何が必要か?料理の手順は?材料を自分で用意できるか?などなどを知っているかを把握しないといけません。
これは、アセスメントですね。
相手の理解力や経験を無視して、自分の知っていることは相手もわかるという前提で指示を出すと事故が起きます。
肉じゃが、定番の家庭料理すぎて逆にバリエーションありそうですけども。
いきなりノーヒントで「肉じゃがを作ってください」とオーダーして、自分が思った通りの肉じゃがが完成するとは限りませんね。
説明を動画に撮って自分で見直せる人なのか、メモを取ることはできるのか、一度でわかるのかetc…
やりやすい覚え方も人それぞれです。
必要な情報は人によって違います。
まずはイメージのすり合わせをして、何がわかり、なにがわからないのかを知るためのコミュニケーションを取っていきましょう。
今日の内容は、実行機能障害のうち、何がわからないのかわからない、何から手を付けたらいいのかわからない、といったタイプの説明を意識して書いてみました。困りごとは他にもありますので、一例としてお読みください。
今日のヘッダーイラストは、YOUさん(仮名)が描いてくれた料理をイメージしたイラストです。
今日の内容にピッタリでしたね。
#みんなのフォトギャラリー に登録しておきますので、よろしければお使いください。