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「パンスタードリーム」乗船記 (3)

(2)の続き。

1.関門海峡


時刻は21時少し前、ショーの熱気が冷めやらぬ船内を後にしてデッキで海風を浴びる。3月も下旬にさしかかる頃だったが風は少し冷たく、時折身体が持っていかれそうなほど強く吹いていた。

前方には既に北九州の工場群の光が。

工場群
小倉市街地

波音しか聞こえない漆黒の闇の中を進んでいると少しづつ祖国の街の明かりが近づいてくる、海外旅行のフィナーレを飾る演出としてこれ以上のものがあるだろうか。

韓国人の乗船客にとってはこれがこの旅で初めて目にする日本の街明かりということになる。その感動も相当なものだろう。



彦島の南を回り込んで大きく舵を切る。
先ほどまで右側に見えていた小倉の街が真後ろに。


門司駅付近

この辺りからは海峡の幅が1km程度しかなく、陸地のかなり近くを航行する。


続いて左側に下関の街が見えてくる。垂れ込めた雲を照らす海峡ゆめタワーの威容が印象的。


間髪を入れず右側には門司港レトロ地区。


関門航路のクライマックス、早鞆瀬戸に架かる関門橋。
この橋をくぐる定期航路は、旅客輸送休止中の日中国際フェリーを除けば今乗っているパンスターと松山小倉フェリーのみ。


主塔のライトアップが無いので些か地味な印象は否めない。
それでも、外洋航海を終えて瀬戸内海というホームグラウンドへの入口にある凱旋門とも言うべき橋だ。


一度も乗らない人はいても
一度だけ乗った人はいない

関門橋の通過は21:30頃だったが、デッキ後方にあるカフェテリア「夢」はまだ営業していた。
大阪発の便ではここで瀬戸内海を眺めながらのクルージングも楽しめそう。


船内へ戻る。


「サウナ」という名の大浴場。夜は23時まで、朝は5時からと利用時間が長めなのが嬉しい。

海風に当たり続けて冷えきった身体を温めよう。


入口のドアを開けた瞬間に猛烈な湿気。なぜか脱衣所がサウナ状態。
「サウナ」ってまさかそういう意味じゃ無かろうに。

ところでこの白いカーテンは目隠しだろうか。
このカーテンを開けるとドアが…

無い。

脱衣所と浴室を仕切るのはペラペラのカーテン1枚だけ。したがって浴室の湯気がそのまま脱衣所へ。おかげで脱衣所は壁も床も結露でジットリと湿っており、カメラやスマホを置いておくと壊れそうなレベル。
これが露天風呂ならまだしも、屋内の大浴場でこんなのはさすがに経験したことが無かったので驚いた。韓国人はこれでも不快に思わないのか?

国内のフェリーの常識が通用しないこの船、やっぱり面白い。

色々あったが身体は温まったので、自室に戻って就寝。


2.起床〜朝食

旅を続けていると早寝早起きが身体に染み付いており、5:30過ぎに目が覚める。
窓の外を見ると、ちょうど瀬戸大橋をくぐるところだった。

本航海3回目の橋くぐりを見届ける(実際には深夜に通過した来島海峡大橋を含めて4回目)。外は徐々に明るくなり始めていたが、二度寝。

そして7時に起床。日がだいぶ昇っていた。

ラウンジへ行くと、ちょうど紅茶用のお湯とコーヒーの準備ができたところだった。
準備をしていた乗組員に韓国語で挨拶される。自分も韓国語で返す。

韓国滞在中は、観光地や店以外の場所で韓国人とコミュニケーションを取ろうとすると初手では毎回韓国人と思われて韓国語で話しかけられていたので、こうして韓国人と認識されることにもすっかり慣れてしまった。


淹れたてのコーヒーで目を覚ます。


柔らかい朝日が射し込むラウンジでぼんやり景色を眺めていると、朝食時間を告げる放送が入った。

朝食券を持ってレストランへ。
朝食の時間は7:30〜8:20と短い。

朝食らしいラインナップだった。普通に美味しい。
ご飯は赤米が入っていた。

レストランの各テーブルには紙のランチョンマットが準備されていて、使用済みの席のマットはすぐに交換される。

ちなみにランチョンマットに描かれているのはブリッジ前部の装飾板が特徴的な「パンスター・ハニー」。この船は「パンスタードリーム」以上に複雑な経歴を持つ。


あまりにも良い天気だったので、腹ごなしに外部甲板を散歩する。


朝ファンネルは健康に良い。
国際航路はその効用が何倍にも感じられる。

ツインファンネルを持つ大型フェリーも少なくなってきた。


8時過ぎ、ジャンボフェリーの「あおい」と反航。


なぜかブリッジのカーテンが1ヶ所だけ開いていた。


3.明石海峡

部屋に戻って荷物の整理をしていると、明石海峡大橋通過の放送が。

この航路でくぐる橋はこれで5本目。この数は自分が乗った航路ではもちろん最多、国内でこれを超える航路はおそらく存在しないのではないだろうか。


皆が同じ方向を眺める一体感も船旅の醍醐味。

数えてみると明石海峡大橋をくぐるのは15回目だった。ちなみに渡ったのは2回だけ。


いつも関西〜九州航路でくぐるのは夕方〜夜か早朝なので、日が昇りきった明るい時間帯にくぐるのは初めて。
こうして見ると橋の塗色は完全な白色ではないことが分かる。


大阪湾に入り、この船旅もいよいよエンドロールが流れ始める。


4.下船

時刻は10時、部屋の鍵を返却しろという放送が入ったので最後にもう一度ラウンジへ。
もう大阪南港は目前。


到着は定刻から30分遅れて10:30。
先を急ぐわけでもないし、少しでも長く乗っていられるのは嬉しい。


大阪南港で国際航路が使用するターミナルは咲洲の北側に位置し、さんふらわあ・名門大洋・オレンジフェリーが使用する場所とは異なる。
接岸時の周囲の風景も新鮮。


接岸完了。


エントランスで15分ほど待たされ、ようやく下船。
一緒に並んでいた乗客を数えると50〜60人だった。


釜山港とは異なりボーディングブリッジが無く、ギャングウェイからの下船となる。
到着して1歩目でしっかり地面を踏めると「上陸」した感じが強くなるので個人的にはこっちの方が好き。


この視点でフェリーを見る機会も少ない。


歩いても1分で着く距離だが、バスに乗せられてターミナルの建物へ移動。


入国審査前の通路から。

入国審査は韓国人と日本人で列が分けられていた。韓国人は2レーン、日本人は1レーンで、ここもスムーズに通過。
日本人は15人ほどだった。

その後の検疫では、鞄のチャックを開けて中身を取り出され、細かく調べられた。ただし開けられたのは2つあった鞄のうち1つだけだったので、ランダムで選んでいるようだ。
検疫官は大阪らしくよく喋る明るいオッサンで、鞄をゴソゴソやりながらマシンガントークを繰り出されたので楽しかった。3日ぶりにまともに日本語を喋った。


先ほど船からターミナルまで乗ったバスが今度はターミナルの外で待機しており、コスモスクエア駅まで運んでくれる。




空路であれば1〜2時間で行ける距離を20時間近くかけて移動してみたが、外部から切り離された空間に身を置いて、長旅を振り返りながらゆっくりと日常に近づいていく体験は何回やっても飽きることのない贅沢なものだった。

船内の雰囲気は完全に韓国なので、少しでも長く韓国気分を味わっていたい人にもおすすめ。
空路と違って何時間も前に港に到着している必要もない。持ち込める手荷物の制限も緩い。

時間が許す限り、次回も韓国へは船で渡航したい。

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