社員約10人で3か月。テレビCMに挑んだスタートアップの記録。【7000字】
小さなスタートアップが、生産者さんの苦境を機に、短期決戦でテレビCMに挑んだ闘いのnoteです。10人ちょっとのチームで泥だらけで走った3か月が、何かの役に立てば幸いです。
1. このnoteを書く背景
こんにちは。はじめまして。
現在関東圏でCMを放映中の「食べチョク」を運営する(株)ビビッドガーデンの松浦です。
「食べチョク」は、農家さんや漁師さんから直接食材をお取り寄せできる、産直ECサイトです。生産者のこだわりを知った上で購入でき、直接あたたかいやり取りを楽しめるマーケットプレイス。
私は、ビビッドガーデンのマーケティングの責任者で、7月中旬から関東で放映されているテレビCMプロジェクトの全体指揮を行ってきました。
今回会社として(個人としても)初のCMを行うにあたり、かなりの苦労と工夫がありました。CMのノウハウをまとめた情報の少ないことよ......
少人数(全社員10名程度)で3か月で走り切ることになった本プロジェクト。ぜひ参考にしていただければと思い、このnoteを書いています!
2. 今回のテレビCMの効果
まだ放映は終わっていないのですが、非常に大きいインパクトを生んでいます。Google Trendsの検索数の増減をみると、CM放映開始の18日からぐっと上がって、ベースラインが一気に底上げされています。
「ノバセル」でテレビCMの世界に旋風を巻き起こしている田部さんにもご紹介いただきました。同じ業界の大手各社さんの検索ボリュームも出してくださっています....!
また、生産者さんの注文増加にも寄与し始めています。
脱線しますが、「食べチョク」のような双方向のモデルの場合、UGCを生み出すのは顧客だけではなく、出品者側でもあります。サービスの世界観を一緒に伝えて下さる方がいるのは、大変ありがたい限りです。(「食べチョク」で検索すると社員もたくさん出てきますが、その辺りの話もまたどこかで。笑)
3. なぜやったか
3-1 「食べチョク」のマーケ事情
画像 : https://medium.com/@bretwaters/unit-economics-b347990f839b
私は2018年秋に「食べチョク」のマーケティング責任者としてジョインし、1年近く、ユニットエコノミクスの形成(PMF)を目指し進めてきました。地道なユーザーヒアリングや施策検証を何度も回し、2019年冬ごろからじわじわと新規顧客獲得の方にかじを切ってきました。
プロダクト(純粋なサービスそのものに加え、MDもかなり重要)の開発や、適切なプライスの検証など、マーケティング全般を進めつつ、プロモーションに関しては、一番獲得効率の良い「顕在層」から、「潜在層」にぐぐっとアプローチを進めている状況でした。
サービスを使ってくださる顧客のセグメントごとの解像度が上がってきた中で、各種定期便など継続率を高める打ち手・よりマッチした食材・生産者に巡り合う機会を増やす施策を展開し、LTVの底上げに成功。
CAC/LTVの比率は好調になり、大きい施策も打てる状態になりました。そんな中で、もう一つ大きい要因があり、テレビCMに一気に踏み出すことになります。
画像 : https://www.searchenginejournal.com/applying-aida-digital-marketing/67755/
3-2 コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスの感染拡大は、一次産業にも衝撃的な影響をもたらしました。飲食店メインで卸していた野菜・米や、ホテルへの出荷・イベントを見込んでいた食材、あるいはオリンピック用にかなり在庫を確保していたものが、一気にひっくり返りました。
コロナで販路を失いお困りの生産者さんが続々と出てきてしまった今だからこそ、強烈な一撃を打たなければならない。一人でも多くの方に届けなければならない。そんな中でテレビCMを放映するという選択肢が浮上しました。
4~6月は本当に様々な施策を打ち、在宅ニーズの増大という追い風があり、確かにある程度は需要側も増えていきました。
ですが、既存の販路を失った出品者(生産者さん)は日を追うごとに増加し、生産者さんの大量の食材を楽しんでいただける方を探す必要がありました。もっともっと多くの方に届けなければと、日々生産者の声を聞いている中で、悩むことも増えてきました。
そんな中、あらゆる手段を検討し、以下の三点から、このタイミングで取るべきマーケティングの打ち手は、「テレビCM」が最適解だと考えました。
1. マーケティングの最も効果的な媒体
様々な媒体がある中で、家の滞在時間が増加し、テレビを見ている人が多いことから、リーチ先として、他の媒体よりもこのタイミングにおいてはマッチしていると判断。
2. 顧客へのアプローチのタイミング
コロナが想定よりもかなり深刻化し、リモート・在宅が常態化したことで、食材を受け取れる人口が増え、料理へのニーズが高まっています。爆発的にインパクトの大きい施策を合わせに行くことが最適と判断。
3. 広告主としてROIを上げやすい情勢
テレビCMに出稿する企業が減ったことで、通常よりも金額を抑えて放映することが可能になり、上記2点と合わせると、高いROIが見込めると判断。
コロナ禍の今、CMをやるしかない。
そのため、私たちの一番伝えたい想いは盛り込みつつ、最優先にしたのは、「このCMを打つことで、爆発的な成果を上げ、生産者さんの売上に貢献すること」でした。
「認知」ではなく「コンバージョン(浅いCVではなく、注文まで)の増加」を狙うCMに。訴求はより広い層のお客様向けに全振り。CMの方向性は、15秒で盛り込みすぎないよう、かなりシンプルにしています。
「チョク」だから新鮮、美味しい。
「チョク」だから生産者に還元できる。
「チョク」だからイイモノがちょっぴりオトクに。
↑ SNSでもシズル爆発のCMでお腹を空かせてくれる方が...!!
4. 何をやったか
さて、大勝負に打って出るにあたり、できることは本当にすべてやり尽くすべく動きました。
「CMをいかにして良いものにしたか」及び「CMに連動して何をやったか」についてここからは書いていこうと思います。
4-1 CMクリエイティブの科学
(1)綿密な顧客ニーズの把握
CMはワンショットが非常に大きく、細かいチューニングも難しいため、事前準備がすべてを決めます。まずはユーザー調査から行いました。
食べチョクの顧客の中でいくつかグループ分けをし、各セグメントの中でまずはアンケート、次いで数名ずつインタビューを実施、食材を食べチョクで購入する本質的な動機、他のサービスを愛用・利用中止する動機を再確認します。
この時点で、配信エリア・メインターゲット・彼らの感じている価値の最終候補を固定させました。
(2)訴求の絞り込み
続いて、さらなるユーザー調査を仕掛け、どの訴求パターンが一番購買行動に繋がるかを検証。WEB広告でも同時並行で訴求の検証を行い、最終的に訴求をかなりコンパクトに絞りました。
選択肢として、「サービスの背景にある想いを伝える訴求」はこの段階で断念し、「顧客ファースト」に全振りする覚悟を決めます。
新鮮でおいしい食材を、生産者さんから直接買える。
直接買うので、本当にイイモノがちょっぴりお得に買える( NOT 安い)。
一部商品は送料無料。
端的に言って食べチョクの「便益」は何なのか。何がバリアになるのか。こういったことがかなりシャープになり、15秒の短い時間で伝えるべきことが見えてきました。
(3) クリエイティブのA/Bテスト
実は複数パターンの検証を行っていました。
一般的にはエリアで勝ち残りでクリエイティブを磨いていくのかと思いますが、今回は超短期間での勝負ということと、首都圏に圧倒的に顧客が集中していることから、検証の仕方を工夫しています。
Web広告での検証もしつつ、差分のない曜日別で複数パターンを放映し、クリエイティブを最適な訴求に一本化させました。事前の検証に時間やコストを割きづらい中で、最大限の検証を実施し、一番効果の良いものをお届けしています。
(4) 効果分析
マスマーケティングはなかなか分析しづらいと言いますが、できる限り効果を最大化すべく分析をしたいところ。
まず、Google Trends・Search Console・Yahoo リアルタイム検索の3つで、反響の大きさ自体をみます。曜日・時間帯・枠、何が一番大きなドライバーになるのかを注視します。
次いで、サイト内はもちろんGoogle Analytics。追うべき指標はあくまでコンバージョン。浅いCVとしての会員登録、購入、複数回購入まで。
こうした各番組・時間帯別に、単純な数字の増減はもちろん、GRP対効果を計測し、最大化のための分析を行っています。
この中で、顧客行動についていくつか面白い仮説が出てきたため、それも追加の打ち手に反映させています。
4-2 CMの効果を倍増させる
制作チームの皆様のおかげで、非常に良いCMが出来上がりつつある中、サイト側では、その効果を最大化させるべく、大量の施策を超短期間で展開・実装しました。
◎多くの人に届ける
・流入を増幅させる
◎期待に応える
・サイト側でニーズにこたえる
・オペレーションを構築する
・サービスを正しく理解してもらう
◎リピートしてもらう
◎その他
・仲間を集める
こんなことを一気に20プロジェクト程、10人少々で分担しながら3か月で推進していきました。
↑ 放映開始を見届け、力尽きるCMチーム
ここからは、大量の施策の一部をかいつまんでご紹介します!
(施策01) プレスリリース戦略
CMをただ座って待っているだけでは当然足りないので、連鎖的に複数の経路で効果の増幅を狙います。
CMまでにやらなければならないことが多く、ニュースリリースが大量に発生しました。公開スケジュールを引き、リリースのタイミングは慎重に調整しました。
6月のリリースは8本、7月のリリースは6本と怒涛のリリースラッシュ。
例えば、No.1リリース。産直ECサイトという領域で、4つの1位を獲得できました。実はちょっと前からわかっていましたが、このリリースを出すタイミングは注意しました。CMではじめて食べチョクを知った方に安心していただけるよう、こういった情報も引き続き発信していきます。
メディア露出もテレビ・新聞・雑誌・ラジオと6月・7月の露出を厚めに狙っていました。多くのメディアの方に興味を持っていただき、合計露出数は5月から7月までで1000掲載以上。会社としても過去最高実績を続々塗り替え、7月の放映に大きな波を寄せていきました。
6月は、がっちりマンデー・ノンストップなどテレビ13本・ラジオ5本・新聞3本など、怒涛の掲載ラッシュで、Googleトレンドでは一時4位まで浮上しました。
7月は、さらにテレビ3本・25ansやクロワッサンなどの雑誌4本をはじめ、よりターゲットに近い層へのアプローチを寄せていき、CM放映を迎えることができました。
(施策02) iOSアプリのリリースとストア最適化
戦略的に、アプリを実装する前に、webのみで長らく仮説検証を繰り返してきた食べチョク。
しかし、CMで見て検索しても、アプリが見つからないとかなりの機会損失になります。少しずつ進めていたiOSアプリも、急ピッチでリリースに向けて開発を進めました。
ストアの公開からしばらくは告知もせずひっそりとバグのチェックを実施。この結果、クラッシュすることもほぼなく、高いレビューを維持できています。
運用に載ったらプレスリリースを打って、そこからしばらくしてからCM開始、というスケジュールで進めていきました。
リリース自体は最小スコープで行い、ストアの最適化も直前まで進めました。CMの訴求に合わせること・視認性高く言えることを言い切ることなどなど、デザイナーチームと連日話し合い、CM放映開始のタイミングでストアが差し変わるように調整しました。
↑放映前
↓放映中
ストアで検索した際のクリック率の向上と、ダウンロード済みのお客様のリテンションを狙い、アイコンもCM仕様に差し替え!
(施策03) 「夏の福袋」企画
顧客がサイトに訪れた際、プラットフォーマーとしては、どんな商品を目にするかもひとつの大きな「体験」になってきます。トップページの商品の陳列は、スーパーの棚と同様に非常に重要な要素になります。
全力で新規出品者を増やし、生産者数は2月末時点で750軒程度だったのが、8月頭の時点で2200軒以上に爆増しました。(5か月で約3倍!)
こうした各生産者さんに素敵な商品を出していただくのに加え、プラットフォーマー側でも企画を考案し、生産者さんと連携して動いています。
届くまで中身がヒミツの「夏の福袋」は現在も絶賛販売中。かなりの人気企画になっています。
多様なニーズに応えるべく、商品を生産者さんたちと考え、どんどん展開しています。
(施策04) ファーストビュー
サイトの顔であるファーストビューは、テレビCMと訴求をそろえました。CMに登場する「あつし農園」さんが野菜を梱包している様子を背景に。
ただの通販ではなく、生産者さんとつながり、生産者さんから直接届けてもらえるという世界観をしっかりお届けできるように設計。また、訴求できるところはしっかり訴求し、ファーストビューの段階で興味を持ってもらいます。最初の接触での離脱率は減少し、スクロール率も上昇しました。
↑CM前
↓放映中
(施策05) 生産者さんの取材
CMではかなり「美味しさ」を訴求していて、尺もたったの15秒だけなので、私たちが本当に伝えたい部分のすべてをお届けしきれていない面がありました。
本質である「生産者のこだわり」を伝えるために、いくつかやったことがあります。
動画を撮影し、CM開始と同時に公開しました。「初めての方へ」のページでも紹介しています。
武ちゃん農場さんと繁昌農園さんの想いが詰まった動画ですので、ぜひご覧ください😢(うるっときます)
(施策06) 食べチョク公式ダンボール
食べチョク公式ダンボールを作成。SNSにあげたくなるようなデザインに。
生産者さんが箱詰めする際に、ドラバーさんが運ぶ際に、注文した方が開ける際に、ワクワクするような体験を意識しています。
SNSでの投稿や、搬送中での認知拡大も含め、これもデザインだけで一記事書けるくらい色々仕込んでます....!
(施策07) 取材記事を連続公開
5月6月7月と、続々と新しい仲間が増えました。彼らを一人一人取材し、こちらもスケジュールを切って毎週公開。
会社として急成長している現状がきちんと伝わること、ビビッドガーデンで働く仲間のことを生産者の皆様やお客様にも届けること、それを目指して社内の状況を発信しています。
例えば、山下の記事はTrending・Weekly・Monthlyで一位を獲得、三冠を達成しました。
5. 食べチョクのこれから
CM放映はまだ続きます。事業成長のための大きな波になっているテレビCMにとどまらず、マーケティングの施策は引き続き戦略的に仕掛けていきます。
これから食べチョクは、さらに多くの方に満足していただけるようなプロダクトづくりに取り組んでいきます。たくさん発表したいことが続いています....!!!(早く言いたい。笑)
高齢化の進む一次産業の世界は大きく変化しており、コロナや豪雨など、外的な影響も強く受けています。
徹底的なデータドリブンと爆速施策展開を掲げるビビッドガーデンを、ぜひ応援いただけると嬉しいです!
🔽チーム食べチョクに興味のある方へ🔽
🔽旨いもんが好きな方へ🔽
食べチョクは、#元気いただきますプロジェクトに参加し、対象商品を送料無料でお取り寄せできます。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!
最後に。
死ぬ気で走ってくれたチーム食べチョクの皆、ありがとうございました。引き続き頑張りましょう!!
短期間で素晴らしいCMにしてくださった制作チームの皆様、お忙しい合間を縫って協力してくださった「あつし農園」さんと「ふく成」さんには頭が上がりません。心より御礼申し上げます。
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