【後編】東京の中心で最先端のファッションを染める老舗染工場が描くものづくり| UCHIDA DYEING WORKS にインタビューしてきました!
前回のインタビューでは、「UCHIDA DYEING WORKS」さんの紹介、内田染工場さんの得意としていること、環境に配慮した設備についてなどをお聞きしました。
今回は前回の内容を踏まえながらグッと深堀をしていきます。
それではさっそく見ていきましょう!
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インタビュー|SDGs競争と「豊かさ」について
井上:以前まではなんかよさそうだから、という理由でSDGsやサステナブルなどの言葉を多用する傾向があるようにあったが、最近はそうではないように感じています。
消費者が多くの情報に触れるようになってきて、発信される情報の質に差があることを知り始めてきました。そこに大きな温度差があるように感じています。複雑化しているように感じますね。
茶畑:「SDGs 競争」みたいになっているなとは感じます。
井上:そうなんです。その競争が激しくなっている印象がありますね。
茶畑:SDGs が資本主義に飲まれている感じではあるなと思います。斎藤幸平さんの『人新生の「資本論」』を読みましたが「SDGs は大衆のアヘンである」と述べていたのは刺激的でしたね。
その感覚はとても理解できて、私自身が感じるSDGs への躊躇いはSDGs 対応商品を購入したりすることで「やってるふり」をしてしまいそうな自分自身に対して持っている感覚でした。これまで通りの経済スタイルの中で、商品がただすり替わっただけで根本は何も変わっていないことを感じるというか。資本主義がそもそもの限界にきているという主張も、本当にそうだなと思います。
私自身、生まれた時から資本主義の中での生活しか送ったことがなくて、それ以外の生活をイメージすることは結構難しいことです。それでも、気候危機の現実を勉強すればするほど、このままの生活スタイルや成長スピードを望むことは難しいと感じます。
でも、急に全てを180 度転換することは難しい。その中で斎藤さんの結論は「脱成長だ」となっているのですが、現実に置き換えた時にどういうことなのかというのを考え続けています。
井上:そうですね。私たちの生活基盤がかつての資本主義的な世界の上に成り立っている以上、いきなり大きな変革は難しいなと考えます。
茶畑:先ほどお話ししたUCHIDA DYEING WORKS のアップサイクルの取り組みや環境配慮型染色の開発ももちろん進めますし、それは当然やるべきこととしてやると思っているのですが、大きな視点でみた時に「SDGs 競争」にならないために大事なのは、本当の意味の「豊かさ」に向かおうとすることではないか、と考えています。
例えば、UCHIDA DYEING WORKSを創始した内田染工場はこれまで100%OEM(受注生産型
工場)でした。つまり委託加工が中心で、ものづくりの主体は外部の会社/デザイナーであり、内田染工場が担うのは指示された内容に基づいた加工や提案です。
内田染工場の職人たちは発想やデザインの主体ではありません。
職人がデザインをすべきか。これには様々な意見があるのを目の当たりにしてきました。
が、私が思うのは、職人とデザインを生むべき存在は本来、ひとつなのだということ。これが極めて遠い存在のように感じられるのは、資本主義の果てに今いるからだということです。
オックスフォード英英辞典によると、アート/art と、職人の意味をもつアルティザン/artisan は、どちらもラテン語のars を語源としているとあります。
つまりアートとアルティザン(職人)は元々ひとつだったし、それを行う人間も同一人物だったにもかかわらず、現代では、職人自身が一番、「職人」と「アートやデザイン」との距離を感じていることが多いです。「自分たちは職人だから(デザインやアートとは関係ない)」という言い方は至るところで耳にします。
これはどこかで分断が起きたんだろうな、と思います。一番しっくり来るのはマルクスが言っていることです。資本主義は効率を追求するあまり、本来豊かなものである労働を「構想」と「実行」に分けてしまうことになる。そして創造的な「構想」を資本家が奪い、単純労働のみを労働者に残す、と。
もちろん、私は実際の職人の仕事が単純労働に止まらないことを知っていますし、ある種聖域とも言える職能に対し限りない尊敬の念を持っています。ただ、だからこそ、職人とは本来ものづくりの主体であり、創造的な部分も担ってきた存在だろうと思うのです。労働の豊かさとは、つまり、その分断されている二つの要素を統一することから始まるんじゃないかな、と思います。
そこにチャレンジすることがUCHIDA DYEING WORKS のもう一つの目指す場所です。
井上:労働と創造の分断が問題だ、とおっしゃっているんですね。
内田:もちろん、従来私どもが行なってきたOEM の仕事において、デザイナーの指示通りに仕事を行うのは必要なことだし、それにもクリエイティビティは必要になってきます。だけれども、もっと職人ひとりひとりの内側から出るものを見つけだしていくことがUCHIDA DYEING WORKS を形成することにつながるのではないか、と考えています。
内田染工場は、職人がいてこその会社であり、UCHIDA DYEING WORKSはその会社を代表するブランドなので。
井上:対話が重要になってきますよね。
茶畑:そうだと思います。
井上:SDGs のスローガンに「誰一人として取り残さない」がありますね。言い換えると自分自身が最後の一人になってしまうともなりますね。では、誰が取り残さないでいてくれるのか。そうならないために誰かとの対話が必要なのかもしれませんよね。それが、分断されてしまったデザイナーと職人の在り方を統一することにつながるのかもしれません。
効率化による分業によって、後工程や前工程の見通しが悪くなっているような状況だと言えるかもしれません。その見通しを良くするために、「トレーサビリティ」がいま必要となっているのかもしれないですね。
茶畑: そうですね、アパレルの世界はトレーサビリティが十分ではなく、素材を追っていくことはすごく難しいことです。
井上: そうなると、固有名が出てくると楽しいですよね。例えば、この商品を染めたのは内田染工場の誰それさんです、など。
茶畑: そうですね、私は職人がものづくりの主体となり得ると信じていますし、その主体を取り戻すための取り組みの中で必然的に職人の名前も出てきたらいいなと思っています。結局信頼は人に行きつくのだと思いますし、固有名はどんどん出していきたいと思っています。
早速ですが、この6月3日~15日に青山のミキリハッシンで発表するPOTTOさんとのコラボレーションは、内田染工場の若手女性職人である中原美鶴さんと茶畑が組んでトライしました。ぜひ見に来ていただきたいです。
井上: いいですね(笑)
茶畑: それぞれの「個」が立ち上がってくるといいなと思います。
井上: 上下関係などではなく、フラットな関係性の中で「個」が自立して、つながりあいネット状になっていく。そのネットの中で豊かさを担保するようなイメージが湧きました。
内田: 内田染工場としては、それぞれの豊かなあり方が出来るといいなと考えています。ものづくりが好きな人もいれば、そうでない人ももちろんいる。だけれども、うちにいる職人さんはほとんどみんな、ものづくりが好きなんじゃないかなと思います。
それぞれ、自分との対話を通じて創造性が発揮され、それが会社の顔になっていったら素敵だなと思います。そして、それが会社も含めそれぞれの充足感につながっていけばいいですね。あるべき労働の姿だと思います。
そして、それが豊かさにつながればいいですね。担保というと難しいですが、会社としては応援していきたいと考えていますね。
インタビュー|「豊かさ」と「対話」
井上: なかなか、自分の言葉で「豊かさ」を表現できる人っていないですよね。辞書的な意味で答えられる人はいるかもしれませんが。
茶畑: まずは、豊かな仕事とは、創造性と労働とが結びつくところにあるのではないかと思っていて、個々の職人の中から生み出されるものが形になってくるといいなと思っています。ただ、それには自分は本当は何が好きで、何を表現したいのかということに向き合うことが必要になってくるとは思います。
井上: どうすれば見つけられるのでしょう。
茶畑: 自分自身との対話は不可欠だろうなと思います。
井上: でも、結構つらいですよね(笑)。まいっちゃう人もいますよね。
茶畑: そうですね、つらい作業ですし、孤独な作業だとは思います。
内田: そのやり方が見つかったら嬉しいよね(笑)
茶畑: 宮台真司さんの言っている「実存の勝負」ということなんだろうなぁと思います。自分自身の仕事の豊かさを考えるのだから、生き方の問題にもつながるし。
内田:もちろんうちの職人はみんないい仕事をしているんだけれど、それに加えて、さらに自分の取り組みに誇りと自信をもってくれたら、それは充足感につながっていくと思うんだよね。そうなっていく方に向かいたいなあと思いながら取り組んでいます。
インタビューを終えて
内田社長も茶畑さんも、懇切丁寧にお話をしてくださいました。とても温厚でやさしそうな印象でしたが、お話しされる内容はなかなか刺激的で難易度の高いものでした。
今回のインタビュー内容の中には、様々な「対立」が見え隠れしていたように感じます。
「自然由来の染め方」と「化学染料を用いた染め方」
「形あるもの」と「形なきもの」
「構想」と「実行」
「デザイナー」と「職人」
「SDGs」と「豊かさ」
たとえば上のような対立を切り取ることが出来そうです。ジレンマともいえるかもしれません。
ですが、このジレンマを抱えていることこそが内田染工場の思想そのものでもあり、「UCHIDADYEING WORKS」の哲学でもあると考えました。
流行りではなく、職人たちの声に耳を傾け、SDGs 競争には巻き込まれるのではなく、自分たちの豊かさに目を向ける。
このような姿勢を取れるのは、思想・哲学があるからだと思います。
私たちBuddy's には、そんな思想や哲学があるのか考えさせられました。
どうすれば、それを生み出すことが出来るのか・・・
それこそ自分の内側からの声に耳を傾ける必要があるのかもしれません。
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