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その留学、本当に行かせますか?
カナダの病院の精神科病棟は、大抵が迷路のようなルートを通らないと辿り着けない、複雑な位置にあります。
これからお話することは私の主観で、皆さんそれぞれお考えは違うと承知の上で、少し聞いていただければ幸いです。今日は重い内容です!
留学に行けば誰もがハッピー、ではない。
雑な言葉で言うと、お金があれば、誰でも留学できます。
日本国籍以外の方は別ですが、私立の語学学校に通いたい日本国籍の方は、費用さえ支払えば、ほとんどどなたでも留学できます。
なぜなら、語学学校には入学条件がありませんし、最低限の年齢や申込期間を満たすだけで入学できるからです。
そのため、語学学校には様々なバックグラウンドの学生さんが集まります。
国籍や年齢、英語力だけでなく、芸能人やスポーツ選手、モデルや有名なYouTuberやインフルエンサーもいれば、きっと人には言えないバックグラウンドをお持ちの方もいます。
そんな中、今回私がお話したいのは、病歴や既往症をお持ちの留学生についてです。
学校に申し込む際、申込書には、病歴、既往症や障害の有無を記載する欄があります。
学校で受け入れができるかどうか、申込書に記載された内容で判断するためです。
例えば、猫アレルギーがある方がホームステイを希望した場合、猫のいるファミリーは手配しません。
病歴や服用している薬があれば、医師から留学に問題がない旨と、現地での通院や服薬について英文で証明書を発行してもらいます。
慣れ親しんだ母国で受けている治療やサポートが、カナダで同じように受けられるとは限りませんし、専門家に診てもらったとしても、すべて英語でやり取りしなくてはいけませんので、通訳が付けられる保険に加入するなど、事前の準備が必要です。
カナダで留学する場合、医療保険の加入は必須ですが、既往症がある場合は海外医療保険に加入できなかったり、保険料が高くついたりする場合があります。
また、既往症があったとしても、自覚症状がなかったり、自覚症状があっても、実際には診断を受けていなければ、申込書に何も記入しない方もいるので、そのまま見過ごされてしまいます。
カナダで既往症の症状が出たら
ある生徒さんは、摂食障害があることを学校に告げずに留学しました。
滞在先のホストマザーから、〇〇さんが家にある食べ物を全部食べてしまって、他の留学生や家族の分がなくなってしまった、という報告がありました。
これだけ聞くと、学校スタッフは「食欲旺盛な方」だと思います。
ご本人にお話を伺うと、「すぐにお腹が減ってしまうのです」と。
「ホームステイは均一の料金をいただいて、他の学生さんと同じ量の食事を提供しているので、足りない分はご自分で購入してほしい」とお願いし了解を得て、ホストマザーには、「少し多めにご飯をあげてね」と伝え、これで解決かと思いました。
ところが、数日後にホストマザーから再度連絡があり、「家の中の食べ物をすべて食べてしまうだけでなく、それを嘔吐しているようだ。ここ数日で嘔吐の回数が増え、家を汚してしまうので、これ以上ホストできない」とのこと。
こうなると、他のホームステイに移動させることはできません。
ホテルに滞在していただくか、未成年なら保護者に迎えに来てもらい帰国です。
この時点でやっと、ご本人から摂食障害の話が出ました。
日本では特に治療は受けておらず、申込書にも記載しなかった、と。
その方は19歳で、カナダでは成人ですが、日本では未成年なので、お父様に電話をしたところ、「うちの子は摂食障害だが、大したことはないので放っておいてくれ」と、半ば迷惑そうに言われました。
ホームステイの受け入れ先が見つからないので、ホテルに滞在いただく必要があること、ホテル代が別途かかること、既往症は保険が効かない可能性が高いので、体調が優れない場合は帰国された方がよいこと、などをお話しましたが、「はい、はい」と早く電話を切りたそうな相槌。
その方は、ホテルに移動して2日目に、ホテルの共有スペースを汚物だらけにして、誰にも何も告げずに帰国してしまいました。
精神病棟は一度入ったら簡単には出られません
ある生徒さんは、入学早々「クラスメイトが自分の悪口を言っている」と相談に来ました。
状況を伺うと、「後ろの席の人だけが悪口を言う」「頭が悪い」「役立たず」と小声で言われている、と。
一番下の英語レベルのクラスの学生が、英語で悪口を言えるはずも、聞き取れるはずもありません。
教師に確認しても、そんなことはない、と言いますが、勘違いだと流すわけにもいきません。
そうこうしているうちに、学校には来るものの、授業を受けなくなってしまいました。
私のオフィスの椅子に座って、ほとんど何もしゃべらず、ずっと体を揺らしているのです。
「教室に行ってみたら?一緒に行ってあげるよ」と声をかけても「みんなが悪口を言って怖いからいやだ、ここにいたい」の一点張り。
そんな状況が数日続く中、どうして留学に来たのか少しずつ話してくれました。
『両親との折り合いが悪く、小さい頃から出来の悪い子供だと罵られ、優秀な弟と常に比べられ、家では居場所がなかった。
見兼ねた祖母が貯めた年金で留学費用を払ってくれ、家から出ることができた。もう家には戻りたくない。
祖母がくれたギリギリのお金で留学に来たため、滞在は自分で見つけた古いアパートの狭い部屋に数人で住んでおり、そのうちの2畳ほどが自分のスペース。』
これから1年間留学しようとしている方が、その環境でもつでしょうか。
状況は日を追うごとに酷くなり、シャワーを浴びていないのか悪臭がし、私のオフィスにいてもらうのも難しく、病院に行くことを勧めました。
一緒に大きな病院に行き、待合室で5時間ほど待たされました。
その間にたくさんのことを話しましたが、純粋でとってもいい子なのです。
ただ、周りに優しくしてくれる人がお祖母様しかいなかったようでした。
迷路のようなルートを通って精神科病棟に着き、そのまま入院することになりました。
その生徒さんは成人だったのですが、精神疾患で留学生が入院すると、大抵は身内の方が迎えに来てくれないと退院できません。
帰国を前提に一旦入院させるのですが、ひとりで飛行機に乗って、何事もなく家に辿り着けるかが疑わしいため、家族に迎えに来てもらうのです。
この方の親御様は、入院から3ヶ月以上、迎えに来ませんでした。
何度も説得をし、迎えに来てもらわないと退院できないことを伝えても、自分で決めた留学なのだから、と迎えに来る気配はありませんでした。
私は仕事帰りにできるだけお見舞いに行くようにしていました。
私が訪ねると本当に嬉しそうにしてくれ、看護師さんが「あの子、あなたが来るのをいつも楽しみにしているのよ」と。
お母親様が迎えに来た際、住んでた家に荷物を取りに行ったところ、不在にしていた間に私物が盗まれてしまったそうで、「あんたが入院させるからだ」と電話越しに怒鳴られました。
学校スタッフに専門知識はありません
私は、学校のスタッフです。
医療の知識もなければ、どのように対応するのが正解かも分かりません。
ド素人が、瞬時の判断で、ベストだと思う対応をしているだけです。
よかれと思って言った言葉で、かえって相手を傷つけたり、状況を悪化させる可能性だってあります。
カナダには、日本語を話す精神科医が数人いると聞きます。
たったの数人です。
カウンセラーと患者の相性が合うとは限りません。
つまり、十分なケアができないのです。
負担がかかるのは、留学されたご本人です。
学校スタッフは、どんなに心配でも、病院に連れて行くことしかできないのです。
その留学、本当に行かせますか?
学校側は、どんな学生でもできるだけ受け入れたいと思っているはずです。
少なくとも私は、色々なことを抱えた方もいるけど、留学でよい方向に人生が変わってくれたら嬉しい、と思っています。
でも、もし既往症や病歴や心配事があったら、できるだけ詳しく事前に学校や留学エージェントに伝えてほしいのです。
これは、生徒さんをジャッジするものではなく、できるだけ受け入れたいという気持ちの上で、受け入れが現実的かどうかを判断するためのものです。
留学に行っても、ミラクルは起きません。
むしろ、慣れない海外生活で症状が悪化する生徒さんの方が多いです。
それであれば、相談や治療を受けられるところがあるかを事前に調べたり、現地で頼れる専門家を手配しておく必要があります。
そして、留学に行かせるか、じっくりと家族で話し合ってほしいのです。
留学に行かない、ということも、ひとつの選択肢です。
続きは次回。ちょっとアピール。こんなことやっています。👆