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国際ロマンス詐欺師、アーロン
ある日のこと。
仕事用に使っているWhatsAppに中国語でメッセージが。
仕事柄、世界中の方から学校のお問合せがWhatsApp経由で来ます。英語ではない言語で連絡が来ることも日常茶飯事。
私は中国語が分からないので、そのように英語でお返事。「ごめんなさい、英語でお願いします」
すると、「Hello, Xu, my friend Lisa introduced me to you. I heard that you have a Charlie Maitreya RM 056 felipe massa 10th Anniversary Edition for sale.」とのこと。
私は学校屋であって、時計屋ではないので、「番号間違えていらっしゃるのではないですか?私はXuさんではないですよ」と言うと、「あー、ごめんなさい!ご迷惑をおかけしました」との返事。
では、さようなら~と会話を終わらせようとしたところ、
「すごくお綺麗ですね」
へ?!
いやいやいやいやいや~。
ありがとうございます?
仕事で使っている番号なので、WhatsAppのプロフィールには私の肩書と顔写真が。
まったく悪い気はしませんでしたが、いつまでもチャットしているわけにもいかないので、「ありがとうございます!では!」と返信。
すると、「こうして出会えたのも何かの運命ですよ」と。
私は既婚者なので、そんなことを言われても、揺るぎない気持ちで即座に番号を消去せねばなりません。
というわけで、WhatsAppの消去画面をタップして、、、おっと、その前に、念のため相手のプロフィール写真を見ておこうかな、、、って超イケメン!!名前はアーロン。
少しワイルドな感じで、鍛え上げていそうな、それでいて頭もよさそうな雰囲気のイケメンアジア人。
『まあ、今日はそんなに忙しくないし、ちょっとのチャットくらいつきやってやるか』
5秒前とは180度態度を変更し、「これ仕事用の番号で、お客さんだと思ってお返事しただけなので、、」と返信すると、「仕事は何しているの?」と。
当たり障りのない程度にバンクーバーにいることを告げると、「バンクーバーの近くの牧場に投資している」と、かなり具体的な地名まで挙がった。
40歳のアーロンは、出身は北京だけど、今はサンフランシスコに住んでいて、バツイチ子持ち、一人娘は北京の実家に預けており寂しい思いをしている。
親は軍人家系で、自分も昔は軍人。今は自分でいくつか会社を持っているが、叔父とゴールドの投資をメインでしている。先週末はナパ・バレーに行って、友達とワインを楽しんだ、と写真を送ってきた。
この時点で、この男は『詐欺師』または『クレイジー・リッチ!』に出てくるお金持ちかの二択になった。
80%詐欺師で、20%金持ち。
100%詐欺師なのだろうが、イケメン過ぎて、詐欺師と信じたくない気持ちが金持ちの支持率を20%まで引き上げた。
さて、こりゃどうしたものか、、
考えた末、詐欺師100%と確信が持てるまで、チャットに付き合うことに決めた。
翌朝。
アーロンから「おはよう!」のメッセージ。
「今日は〇〇社のヴァイス・プレジデントの〇〇さんとゴルフなんだ」と、具体的に誰とゴルフをしているかまで教えてくれる。
気になったので、会社名とそのヴァイス・プレジデントをググると、実在の人物。
その間にも、アーロンから朝食は食べたか、体調はどうか、と気遣いのメッセージが来る。
『詐欺師はやっぱりマメじゃないとできないんだろうなー』と漠然と考えつつ、『いや~、もしかしたら、この人詐欺師じゃないのかなー』とも頭をかすめる。
ゴルフ場やら、車やら、ワインコレクションやら、色々な写真を送ってくれる。
そんなやり取りが続いた4日目。
遂にアーロンが、「君は投資に興味ないの?」と。
キターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
詐欺師的発言!!
「投資はよく分からない」と伝えると、「ボクが教えてあげるよ。叔父が中国の鉱業関係の仕事をしていて、ゴールドの流通に詳しいから、買い時や売り時を教えてくれるんだ。ほら見て、今たったの10分でこんなに儲けた」と、チャートを送ってくる。
詐欺師率80%が、90%に上がった。
でも、あと10%ほしい。
100%まで、あと10%。
私は捜査に乗り出した。
まずは、今まで送られてきた写真をすべてググってみた。
すると、ナパ・バレーの写真の中にあったレストランの写真が、エルサルバドルにあるホテルの写真と合致した。
やっぱり嘘の写真だ!!
他もググってみたが、合致する履歴はなく、エルサルバドルだけが有力な手掛かりになった。
くうううう!!!
これだけでは決め手にならない!!!
他にも何か!
そうだ、もっと写真を送らせよう!
もっと顔が見たいと写真を送らせてみた。
すると、、、
アーロンは超イケメンのはずが、劣化した男の写真が送られてきた。
この数日間のやり取りの間に、「アーロン」のシフト交代があったか、「アーロン」が混乱してしまい、別人の写真を送ってきてしまったのだ。
アーロン!なんて失態。
「アーロン=イケメン」の方程式が崩れた時、詐欺師と信じたくない気持ちが0になった。
ここまで来たら、アーロンには詐欺師を辞めて、まっとうな道に進んでもらいたい。
この人はどこの国にいて、どんな状況でこの詐欺組織に入り、今まで何人の人を騙してきたのだろう。
日本で国際ロマンス詐欺に遭った方のニュースを聞いて、カナダではないだろうと思っていたが、アーロンをきっかけに調べたら、北米でもたくさんの方が騙されていた。
異国に住んでおり、軍人、ゴールド、仮想通貨などがキーワードらしい。
この詐欺組織は許せないが、(プロフィール写真を思い浮かべながら)アーロンは、もしかしたら恵まれない環境に生まれ、こんな生き方しかできなかったのかもしれない。
曲がりなりにも1週間ほど付き合ったのだから、私にも多少の情は残されていた。
救ってやらねば!
「一緒に投資をしようよ!」の一点張りで、チャートばかり送ってくるアーロンに、遂に「今から電話するわ」と言ってみた。
そして、かけてみた。
出ない。
なっているが、出ない。
一度切って、
またかけた。
出ない。
出ない。
ブロックされた。
終わった。
英語を一生懸命に勉強している方が、こういうアーロンみたいな輩に騙されたら、本当に悲しいです。
文面だけなら、優しいし、思いやりがあるし、(しかもイケメンだし)、非の打ちどころは何もありません。
でも、相手がどんな人で、悪意があるかないかは、自分で見抜かなくてはいけません。
中高生は新しいデバイスやアプリも難なく使いこなしますので、無料アプリを使って知り合った、海外の人と話す方が増えているようですが、リテラシーを高める能力も一緒に培っていかないと、傷付いたり、トラブルに巻き込まれたりすることがあると思います。
なーんて、詐欺師と分かっていながら返事した人が言ってはいけませんね笑
👇TEDより。
続きは次回。ちょっとアピール。こんなことやっています。👆
みんなのフォトギャラリーから、T_GAIさん、ありがとうございます💛