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6歳の私が床屋さんからの年賀状にびっくりしたときの話

んえええ!? 床屋さんって年賀状くれるの??

とハイパーびっくりした記憶がある。

あれはたしか幼稚園児くらいのときのこと。髪を切られている間じっと座っていられる程度には成長していた私は、毎月親に連れられて近所の床屋に通っていた。

控えめなサインポールで大通りを彩るそのお店を経営していたのは、推定30代前半くらいのお兄さん。スタッフは雇わず、1人で回していた。

朗らかな笑みが印象的なお兄さんで、超絶人見知りだったショタまりしゅんも初回から安心して頭を預けていた記憶がある。施術中に見せてもらえるドラゴンボールZと帰り際にくれるキャンディがいつも楽しみだった。

さて、通い始めて半年以上が経ったお正月のこと。

夕方、ポストから大量の年賀状を抱えて母が帰ってきた。色とりどりのはがきの束から私宛のものをピックアップし、1枚ずつ机に並べる。祖父母や叔父叔母、幼稚園の先生、それから、

「え、××××(床屋)のお兄さん!」

子供心に、割と大きな衝撃を受けた。

お店の人って年賀状くれるんだ、と。

当時の私にとって、年賀状とは家族やお友達などの「特別親しい人」からもらうものだというイメージがあった。

美容師と客、それはあくまでビジネス上の関係。子供ながらになんとなくそう理解していて、まさかサービス時間以外で個人的なメッセージをもらえるなんて、完全に想定外の出来事だった。

それから20年以上の時を経て東京で会社員をしている私は、このときお兄さんがくれた年賀状もビジネスの一環であることを重々承知している。

ただ、それがわかったからと言って、がっかりとかしらけるとか、そういうマイナスな感情は全くなくて。

親でも先生でもない大人が自分のことを年末に思い出してくれた。わざわざ手紙を書いてくれた。その事実は、今も心の深い部分で私を温めてくれている。

店と客。ドライでシビアな商売上の関係であっても、あのお兄さんは間違いなく、私を育ててくれた「地域社会」の一部だった。

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この記事は、書く仕事をたのしく続ける「Marbleコミュニティ」の「#新年チャレンジ2025」に参加しています。ぜひハッシュタグからほかの記事ものぞいてみてください。


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