「 未定 」#58 Craig's amazing shot
イズコはチェロから聞き出したアイリーンの潜んでいるらしい森に向かって街を出ていた。とぼとぼと道を歩いていくと道端の大きな石に腰掛けた女性が座っている。
「ちょっと冒険者のお兄さん、話し相手がいなくってつまらないの。この道の先に私の家があるのだけど。そこまで一緒に話しながら行こうよ」
「急いでいるんだ。他をあたってくれるかい」
「そ、そんなこといわずに、行こうよ、ねえ」
「向こうから男女の冒険者がやってくるのが見える。彼らと一緒に行ったらどうだ」
「えっと・・・あなたと一緒に行きたいなと思って、、」
「どういうことだ、罠にかけるわけじゃないよな?」
「何を言うのよ・・・」
「お前の指には爪がないぞ、何者だ」
「・・・・ぐるルルルゥゥゥ、バレたなら、、仕方、、ないねえぇ、、」
女は体がグチャグチャと少しづつ変化してカマキリの体に変身した。顔は女のままだが目が釣り上がり口が裂けて鋭い牙がみえている。カマキリのような手は鋭い金属の刃がついていた。
「やっぱり、、マッドドール(泥人形)だな!」
イズコは呪文を詠唱する。手を突き出しファイヤーボールが3発立て続けに発射された。カマキリ女は3発とも全て素早い身のこなしでよけてしまったのだ。
「おい大丈夫か!」
先程の男女の冒険者が駆け寄ってくる。
「危ない来るな!!」
イズコが叫んだ瞬間にカマキリは男の冒険者に近づき、手の鋭い鎌で男の首をあっという間に切り落としていた。男の首が地面に落ちボトリと鈍い音がした。首なしの体は力なく地面に倒れ込んだ。
女の冒険者が剣を抜きカマキリに切りかかるが剣は空を切る。
カマキリは今度は女の冒険者に襲いかかかった。鎌のような手で瞬時に女性の体を掴み上げると化物の大きなの口がガブリと女冒険者の喉元に喰らいついた。喉元から吹き出す血液。女の冒険者は腕と足を動かしていたが次第に動かなくなった。今まで対峙したマッドドールよりも手強くはるかに俊敏なモンスターだ。
動きが速すぎる・・・このままでは殺られる。。
再びイズコは呪文を詠唱しカマキリとの間にファイヤーウォールがそびえ立たせた。
とにかく時間稼ぎだ。この場から離れよう。
後ろを振り返ったら数メートル先に戦士が立っている。
「君、そのまま動くなよ!」
戦士はそう言うと手に持った斧を振りかぶって投げつけた。
それほど大きくないその斧は回転をしながらイズコとファイヤーウォールを避けるように飛んでいき急激に軌道を変えてウォールの向こうに消えていくとドスンと壁の向こうから音がきこえてきた。
戦士は素早く剣を抜き走り出すとファイヤーウォールの向こう側へ消えていき、彼はすぐに片手にカマキリ女の首を持ちながら歩いてこちらに戻ってきた。
「俺の名はクレイグだ、大丈夫かい?」
端正な顔立ちに加えて理想的なボディバランス。また鎧の下にもたくましい筋肉の鎧を身にまとっているのがわかった。それだけでも彼の戦士としての屈強さを容易に伺うことができた。
「た、助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして。君がファイヤーウォールを唱えたから奴はこちらが見えなくなり斧の軌道がわからなくて倒すことができたんだよ。でもまともに戦ったとしても俺なら倒すことができたけどね」
自信たっぷりにクレイグは話した。
「しかし、すごい技だったよ」
「何万回も練習して会得したんだよ、外すはずが無いね。君は魔術を使うのか。強敵に勝つためにはもっと継続した努力、技の再現性を高めることだ。
あれ、ん?化物の首が・・・」
カマキリ女の首がドロドロと溶けて泥になってしまった。
クレイグ「これは、噂に聞いていたマッドドールか!こんなところになぜ?」
「・・・」
クレイグ「しかしこの冒険者のカップルは残念だったな。もう少し俺が早く倒していれば」
イズコは黙ったまま二人の無残な亡骸に目を落としていた。