「 未定 」#60 Castaways
「おい、君、大丈夫か!」
倒れている女性に近寄って体を揺すった。ずぶ濡れの体は冷たくなっているが、体はかすかに動いていてまだ命を落としてはいないようだ。
彼女は目を開けてつぶやく。
「水・・・」
イズコは慌てて動物の皮でできた水筒を取り出し彼女に与える。
「これ飲んで」
またイズコは薬草を乾燥させ粉末にして小袋にいれ消耗、衰弱、低体温に効くものと魔力を帯びた少々の秘薬をそれぞれ取り出して彼女に与えてみる。
彼女は水筒の水と薬を一気に飲み干した。
青ざめていた彼女の顔と紫色になった唇は急激に本来の健康的な色を取り戻していく。体の震えも収まってきたようだ。
「ありがとう、助かったわ。私はユリア。あなたは?」
その瞬間、イズコの体は不思議な呪文をかけられたように固まってしまった。
時が止まるとはこういうことなんだろうか。
なぜなら、イズコの心が苦しいときに頭の中に現れて優しく話しかけ励ましてくれる女神とそっくりだったから、、、
長く美しい髪、澄んだ大きな瞳、つややかな唇、太陽の光を感じさせるようなポジティブなエナジー
例えるなら野に咲く花のような、自然なとても自然な美しさが彼女にはあった。
「ねえ、どうかした?」
「あ、、あぁ、回復してよかった、、僕はイズコだ。偶然ここを通りかかって、、、ねえ、もう大丈夫?」
「そうね、大丈夫みたい。さっきの薬が効いたのね。ありがとう」
「それはよかった」
「ナターレの国から来たの。内戦がひどくなって、ずっと終わらなくて、住んでいた家も燃やされて、、このままとどまっていたら命も危ないと思って筏に乗って逃げてきたの。途中荒れた波のせいで海に放り出されて死ぬかと思った。他にも逃げ出している人たちが多くいて、他の筏もその時通りかかったけど助ける気もなく通り過ぎていったの、あれには心の底から腹が立ったわ。筏に人が多く乗っていたし、自分たちの安全が保証できなければ助けてくれないものね」
「そうか、、、」
自分の境遇を振り返ってみた。それはよく理解できるよ。
「ところで、君以外に一緒だった人は?」
突然左耳に激痛が走る。
「痛い!!イテテテテテテ〜〜!!!」
振り返るとすごい力で左耳をつねって引っ張ってくる女性がいた。
「こら〜〜!!私の妹に何してんのよぉ!!」
ユリア「ちょっと、やめてよ、お姉ちゃん!今、この人私のこと助けてくれたんだよ」
「え、、、まじで、、、」
イズコ「そうだよ。ちょっと、耳から手を離してよぉ〜」
「あ、そうなの、、、ゴメンゴメン。暴漢にでも襲われたかと思って、つい、、」
ショートカットの彼女はそういうと、掴んだその耳を離してくれた。
「はぁ〜〜痛かった。でもいきなり剣で切りつけられなくてよかったよ」
イズコは痛みが残る耳を手で押さえながら言った。
ユリア「彼女はサマンサ。私の姉よ。一緒に筏に乗ってきたの」
サマンサ「ホントどうなることかと思ったけど、無事に岸にたどり着いて良かったよ、ユリア。あ、そうそう、あんた、勘違いしてゴメンな」
「ああ、もういいよ。僕はイズコだ。旅をしてこのあたりを通りかかったんだよ。君、顔色が悪いよ、この薬を飲んでみて」
先程の薬をサマンサに渡した。
「サンキュー、じゃ遠慮なくいただくよ」
薬と水筒の水を飲むとみるみるうちに顔色が良くなった。
イズコ「そうだ、この近くに教会があったと思う。そこで君たち休んだほうがいいと思うよ。今日のところはね」
サマンサ「それ、いいねぇ。じゃいこうぜ」