「 未定 」#61 Lower magician
イズコとユリア、サマンサの3人は海岸を離れ近くの教会に向かった。
途中に小さな雑貨屋がみえてきた。
サマンサ「ねえ、あの店になにか売っているかな。腹減って仕方ないよ、服もびしょ濡れで着替えたいしさ」
イズコ「よし、立ち寄ってみよう」
店の中に入ると、生活に必要な雑貨やパンなどの食料、衣服も売っているようだ。
イズコ「すいません、誰かいますか」
奥から中年の男の店主が顔をだした。
「いらっしゃいませ」
イズコ「すいません、なにか食べ物と飲み物と女性用の服がほしいのですが」
店主「残念ながら、いまここにあるもので売れるものはないんだ、先程すべて売れてしまってね」
サマンサ「おいおい、冗談だろ。パンだって服だってすぐそこにおいてあるじゃないか。」
イズコ「そんなバカな、誰がここにあるものすべて買ったっていうんだ?」
まさかこんなところにまで、『銀の鬼』の手が回っているなんて
店主「・・・そいつは、ちょっと言えないね。残念だろうがお引取り願いたいんだ」店主は上目遣いに後ろめたそうにこちらを見ながらつぶやいた。
ユリア「ねえ、もういいわ、いきましょ」
サマンサ「ふん、なんだい!くそったれ」
3人は仕方なく諦めて店を出て教会に向かった。
3人は黙ったまま歩いていく。さっきの店で物を買えなかったショックが尾を引いていた。前方の丘の上に教会が見えてきた。
ホッとした瞬間、道の脇の茂みの影から物騒な出で立ちの男たちが現れた。
5人いる、手には剣を持っている。盗賊に違いない。
「おい、止まれ!命が惜しかったら有り金残らず出しやがれ!」
盗賊のリーダーらしき男が叫んでいる。
「兄貴、こいつらなんだか金持ってなさそうですよぉ」
「ちっ、まあいい。若い女が二人いるじゃねえか。売り飛ばせばいい金になりそうだな、それまでは俺たちがたっぷりかわいがってやるからな」
髭面の盗賊のリーダーは薄笑いを浮かべている。
サマンサ「おい、やべえよどうする?」
イズコ「ここは僕に任せて、これでも魔術師なんだ。後ろに下がって」
イズコはそう言うと一歩前に出る。
ユリアはイズコの腕を掴んで身体の後ろに隠れる。
触れられた瞬間、心臓がドキドキする。ファイヤーボールの呪文を唱えたがなんと一向に火の玉は発射されないではないか。
「う、どうした?やばいぞ」
ファイヤーウォールの呪文も唱えたが何も起こらない。集中力が欠けている。しかし、何という出来損ないの三流魔術師なんだろうか。
盗賊のリーダーは笑い声を上げて言う
「はっはっはっは〜、魔術師はどこにいる。なにもでてこねえぞ」
他の盗賊の手下たちもヘラヘラ笑っている。
やばい、ファイヤーボール、ファイヤーウォール、あ〜もうなんでもいいから魔術よお願いだから発動してくれ。あ、そうだ、おーいエンディーロよピンチだから助けてお願いぃ。イズコが焦れば焦るほど呪文の集中からは離れていく。
「そこであなた達なにをしているのです!!」
急に盗賊たちの後ろから声が聞こえ、声がする方を見ると修道女が一人立っている。
「何だお前、うるさい邪魔をするな!」盗賊の一人がシスターに近づいた瞬間になんと彼女の右の拳が速く鋭く男の顔面を捉えて男を吹き飛ばしてしまった。
盗賊たちは途端にシスターに向かって攻撃態勢に入った。
シスターは襲いかかる二人目の盗賊の剣をかわし、顔面に拳を数発連続して叩き込み打ち倒すと、後ろから襲いかかる3人目の剣を足蹴りで叩き落とし腹に一撃をお見舞いして最後はアッパーカットでとどめを刺した。
距離のあるところから弓を構えてシスターを狙っている盗賊がいる。
「危ない!!」
イズコは再びファイヤーボールを詠唱。手の先から炎の玉が勢いよく飛び出した。やっと発動したよ。神様。
火の玉は弓矢の盗賊を直撃し炎が体に移って、盗賊はよろけながらも逃げ出していく。それを見た盗賊のリーダーも慌てて一目散に逃げ出していった。
「よし!!やったぁ」イズコは軽くガッポーズをした。
「さあ、みんな、こっちよ、急いで!」
シスターに促されるままに3人はその後を走ってついていく。
丘の上の教会にたどり着き全員が中にはいった。
薄暗い教会の中には4〜5人ぐらいのグループがすでに4組ほど存在していて疲れた体を休めているようだ。
「私はエラ、ここの修道女です。あなた方の他にも国を追われて逃げてきた人たちが一時的にここで休んでいます。水やパンなら少しありますのでよろしければ召し上がってください。今日はここで泊まっていくといいでしょう。柔らかいベッドはありませんが、この場所は結界が張られ魔物や暴漢はたやすく入れないようになっていてとても安全です。ちょっとここでまっていて」
そういうとエラは奥の扉へと消えていき、少しするといくつかのパンが乗っている木製の盆と水の入った陶器の入れ物、それと女性用の衣服と毛布を持ってきてくれた。
ユリア「助けてもらった上に服と食事を用意してくれるなんて、本当にありがとう。なんてお礼をしたら良いのか、、」
エラ「どういたしまして。明日以降のことですが、この先を北に進むと大きな村があります。そこは国を追われた人達が集まってくらしているのです。領主が慈悲深い寛大な方で彼らを保護しているのです。実はこの教会もその領主の援助を受けてこのような流浪の人々の救済をしているのです。今日は疲れていると思うのでまた明日お話しましょう。ではおやすみなさい」
そういうとエラは奥の扉へと姿を消した。
途端に3人パンを喉につまらせるくらいにがっついて食べ始めた。
サマンサ「助かったし、パンも食べられて最高、幸せだよ」
口をもぐもぐさせながら彼女は話している。
ユリア「こんなに美味しいパン初めて食べたわ」
イズコ「しかし、あのエラとかいうシスターの格闘技は凄かったな」
ユリア「シスターであの攻撃力ってありなのかしら」
サマンサ「ありだよ、あり。そうでもしなきゃ人助けられないだろ。それにしても魔術師さんは大活躍でしたなぁ〜」皮肉たっぷりにイズコを見ながら話す。
イズコ「ちょっと、、、調子が悪かったんだよ」
ユリア「調子の悪いときもあるのよ、きっと。ねえ」
コクリとうなずくイズコ。
サマンサ「しかし、あたしさ魔術師のイメージってもっとこう、威厳に満ちた感じなんだけど、あなたはなんか頼りなさそうで、実際そうだったし。本当に魔術師なの?」
「・・・・・・・」
サマンサ「ねえ、聞いてるの?」
イズコの体を揺さぶって問いただす。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
イズコは両手の人差し指で耳を塞いで声を出し、聞こえないようにしてごまかした。
「けっ、、」呆れ返るサマンサ。
クスクスと笑うユリア。
教会の夜が更けていく。